ナーラクと決断 ページ12
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回数の決まったノックの後、迎え入れられた怪しい酒場。甘い声で女性のゴブリンがジャズを歌う。
ドラゴンが女を奪って、不死鳥が泣いた。
何とも奇妙な歌詞が、紫の煙で形作られては消えていた。
犯罪者然とした客達の向こう。ニュートやティナの手配書があの「グリンデルバルド」の隣に貼られて居るのが奇妙だった。──そこに、メラの手配書だけが無い事も。
「凄く……変な感じね、この店」
「逮捕したことある連中ばかりよ」
クイニーとジェイコブがカウンターの方で何やら楽しそうに語らっていた。正直メラもそちらに行きたかったが、彼らのムードを壊さないためには「今最も辛いテーブル」を居場所にするしかない。
気まずいニュート、女性に余り関心を示さない彼が、確かに興味を持ち始めた過去最大の脅威ティナ。そしてここで待っているのはナーラク。──いっそこの場にヒッポグリフでも乱入してくれないかしら!
歌なんて微塵も入ってこなかったけれど、ゴブリンシンガーに見入るふりをしていれば、ニュートが沈黙を破ってティナに話を振った。
「詮索するなって言われそうだけど……あそこでさっき見えたんだ。その、処刑されそうな時。新セーレム救世軍の男の子を──抱きしめてたね」
「あの子はクリーデンスよ。母親に虐待されているの。他の養子もみんなぶたれているけど、でも彼が一番嫌われてるみたい。
「それで君は母親のノーマジを攻撃した?」
それで調査部をクビになったの、と自嘲気味に話すティナの目に後悔は無い。手段の間違いは認めていても、「クリーデンス」なる少年を庇おうとした事は間違って居なかったと。
ティナはニュートが好きなタイプの女性だ。メラは直感的に理解した。
処刑の時に何があったかは分からないけれど、彼が彼女の正しい優しさを見たのなら。不可解だった二人の距離の縮まり方も腑に落ちる。
……ニュートがティナの事なんか知らないままなら良かったのに。そうすれば、
ふと頭を過った思考。それは一瞬の事だったけれど、自分で自分にがく然とした。──"そうすれば"何?
私達を逮捕したのがティナでなければ、処刑で彼がティナの「記憶」を見なければ、"私が"って?
呆けた様に力を抜いた体が、僅かにソファに沈む。メラの視界に割り込んだ、人外の男が葉巻を吹いて。
「あれが彼よ」と囁いたティナの声。マフィアのボスみたいなゴブリンを、やっぱり少女は知っていた。
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とーふ(プロフ) - 心情の変化を細かく描いてくださっているので、場面が変わるごとに私自身も感情が変わってました笑 素敵な作品をありがとうございます。少しずつ関わり方も変わるのかな?と思いながら、更新を心待ちにしております! (2022年4月10日 0時) (レス) @page31 id: ab5a3330b3 (このIDを非表示/違反報告)
時々雨(プロフ) - スクイブってマグルにも魔法族にも何にもなれぬとても難しい位置にいるんだと感じました。なかなか進展しなそうな難しい恋ですね、これからどうなるのか楽しみです♪ (2022年1月29日 8時) (レス) @page31 id: 6532c97378 (このIDを非表示/違反報告)
Kaede.0807(プロフ) - めっちゃ好きな作品です!更新楽しみに待ってます!! (2020年11月15日 20時) (レス) id: 3d85b18928 (このIDを非表示/違反報告)
nasiremon - 取引のところで泣きました……夢主の気持ちが心に刺さりました……あとニュートがかっこいい……更新頑張ってください!! (2020年6月17日 23時) (レス) id: fa0cba8ed9 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - 皆様コメントありがとうございます!私事で更新が間延びしてしまいましたが、これからものんびり更新していく予定です!ニュートと夢主の行く末を何卒これからもよろしくお願いします!! (2019年10月22日 17時) (レス) id: 3d953e5ca0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みかこ | 作成日時:2019年2月3日 19時