Ep.160 魂を弔う棺 ページ10
崩落がひと段落した頃、廊下には人間サイズの瓦礫が転がり上の階から火の手が降ってきていた。
ベルモットは瓦礫で塞がった部屋の扉を一瞥した。それから、転がった拳銃を拾い上げて踵を返し、その場を去った。
あの部屋に窓はない。出入口に積もった瓦礫にも、せいぜい腕一本ほどの隙間しかない。
ものの数分、十数分もすればここ一帯は人の通れる道ではなくなるだろう。
そして船は海の底へと沈む。
行く宛のない親子の魂を弔う棺として。
───────────────
「どーーすんだこれ……」
入口を塞ぐように積もったコンクリートの破片を呆然と見る。
崩落の直前、私と父さんは廊下の崩壊から逃げるため空いていた部屋に飛び込んだ。たとえ袋小路とわかっていても、その判断が正解であったことは目の前の惨状が告げている。あのままいれば私たちは既に死んでいた。
が、絶望的な状況であることに変わりはない。むしろ悪くなった。
「ま、さすがにあの女も諦めて逃げただろ。これの下敷きになっててくれれば万々歳なんだがな」
「ベル姉を“あの女”呼ばわりってどうなの」
「殺されかけた相手にそこ気遣うのもどうなんだ」
「そう言われても私は彼女を恨む気はないし」
「しかし……どうする、この状況」
目はほぼ復活したのか、父さんも部屋を薄暗い部屋を見渡してため息を吐いた。
炎こそ及んでいないものの室内温度が異様に高く、このまま閉じ込められていれば蒸し焼きか部屋全体の崩落に巻き込まれるだけだ。
かといって脱出口と呼べそうなものはどこにも見当たらない。瓦礫の隙間も、到底人間が通れるようなものではなかった。
「そういえば昔似たようなことがあったような……。あっそうだ、アレ。廃工場に社長令嬢が拉致されてたときの」
「ああ。爆発間際に社長令嬢抱えて窓から飛び出してきたんだから、アクション洋画にも負けない絵面だったなアレは」
「建物の横にトラックつけて『飛び降りろ』なんて言ってたアンタもおかしいよ」
はっはっは、と笑い飛ばす父さんの横で、私は呆れてこめかみを押さえた。
部屋の外からは不穏な物音が絶えず聞こえてくる。ここもいつ床や天井が崩れてもおかしくない。
「父さん、例の毒薬は?」
「それがな、全部渡しちまった」
「……このポンコツ! 肝心なときに!」
「ポン……」
私の悪態に珍しくショックを受けたような父さんへ、ポケットに忍ばせていたコンタクトケースを差し出した。
1724人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サラキ(プロフ) - 完結おめでとうございます。長期間の連載、本当にお疲れ様でした。とても素敵な作品を読ませて頂いてありがとうございます。これからも応援しています。 (2022年10月17日 16時) (レス) @page24 id: 8b491ab3be (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールでこの作品を投稿してくださり本当にありがとうございます。知ったのは遅かったですが、完結前に応援を出来たこととても嬉しく思います。 ほろにがクラゲ様 の今後の活動を心より応援しております。本当に長い間お疲れ様でした。 (2022年10月11日 17時) (レス) id: 0d9b393e0f (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - わざわざ返信ありがとうございます!ログインしていない時にコメントしたのでIDは違いますが、本人です。私も文を見返してアホだなぁと笑ってしまいました🤭 (2022年10月6日 21時) (レス) id: 0d9b393e0f (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけてとっても嬉しいです(~*ˊ꒳ˋ*)~ ちょっとでもリアリティを感じてもらえたらと書いております☺️すみません、突然の誤字にちょっと笑ってしまいましたw (2022年10月3日 10時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
m - 文、変に語彙ってしまいました。すみません🙇♀️ (2022年9月28日 4時) (レス) @page3 id: 721fbfd58e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年9月27日 16時