Ep.161 私なりの合理的判断 ページ11
手のひらに乗せた赤白のカプセルを見て、父さんは黙り込みグレーの瞳でこちらを見返した。
「はい、コレ。返す」
「……妙な冗談を言うな」
「冗談なんか言ってない」
「確かにこの毒を飲んで一か八かに賭けるのがこの状況での最良だろうが、毒薬はひとつしかない。残った方はどうなる? それを使うならここに残るのは俺の役目だ」
「だから勝手に決めんなって何回言えば……」
部屋の隅に小石が降る。床から伝わる振動は、明らかに波の揺れとは違う。私はケースからAPTX4869……今この手にある唯一の鍵を取り出した。
「……本当に時間がない。とにかくこれは────」
「させられるか、そんな真似」
差し出した手はすぐに押し返された。
こんな時に何だけれど、その感覚はひどく懐かしいような気がした。
「お前はあんまりそう思っちゃいないかもしれんけどな、俺はお前の父親だ。俺のせいで危険な目に遭うことも多いのは申し訳ないと思ってる。その分守っていたいと思うし、無事であってほしいって人並みに願うこともあるんだよ」
……なんなんだよ。
急にしおらしい態度を取られてまた文句を言おうとした。
なら初めからこんなことに私を巻き込むな。
黙って一人でいなくなったりするな。
「だが、まあ、なんだろうな。俺に父親は向いてなかったのかもしれん。現に今こうして家族をバラバラにさせて、お前を危険な目に遭わせて……」
夢から覚める直前のようにどうしようもない現状。聞いたことのない言葉。
「……だからってわけじゃないが、せめてお前は無事でいてくれ。俺はどうなったって構わない。お前が生きて無事に母さんの元に帰ってくれればそれでいいんだ」
「……うるさいな」
「ま、何年もほったらかしにしといて急に父親面ってのも図太い話か……けどな」
「────るッさいってば!!」
声を張り上げた。
ぐだぐだ言い訳ばっかり並べやがって、さすがに限界だ。感情のままに胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「さっきから黙って聞いてりゃ先のない話をつらつらと! 無駄話してる場合じゃねえってんだよ状況見ろポンコツ親父!!」
「は? いや、だから現状の解決策を……」
「なってない、全然解決になってない! 私が父さんにこれを託すのは、自分の命を捨てたからじゃない。単に合理的だからだ!」
そうだ。これはあくまで私なりの合理的判断だ。
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サラキ(プロフ) - 完結おめでとうございます。長期間の連載、本当にお疲れ様でした。とても素敵な作品を読ませて頂いてありがとうございます。これからも応援しています。 (2022年10月17日 16時) (レス) @page24 id: 8b491ab3be (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールでこの作品を投稿してくださり本当にありがとうございます。知ったのは遅かったですが、完結前に応援を出来たこととても嬉しく思います。 ほろにがクラゲ様 の今後の活動を心より応援しております。本当に長い間お疲れ様でした。 (2022年10月11日 17時) (レス) id: 0d9b393e0f (このIDを非表示/違反報告)
m(プロフ) - わざわざ返信ありがとうございます!ログインしていない時にコメントしたのでIDは違いますが、本人です。私も文を見返してアホだなぁと笑ってしまいました🤭 (2022年10月6日 21時) (レス) id: 0d9b393e0f (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけてとっても嬉しいです(~*ˊ꒳ˋ*)~ ちょっとでもリアリティを感じてもらえたらと書いております☺️すみません、突然の誤字にちょっと笑ってしまいましたw (2022年10月3日 10時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
m - 文、変に語彙ってしまいました。すみません🙇♀️ (2022年9月28日 4時) (レス) @page3 id: 721fbfd58e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年9月27日 16時