メタ推理が役に立たないJK探偵の本懐【名探偵コナン】

Ep.110 何かが違う ページ10

────深夜、一人暮らしにはやや広すぎる部屋に軽快な着信音が響く。

蛍光灯の明かりは照明としては十分だがどこか無機質な色をしている。音の発生源を辿ってリビングを横切り、ソファに転がる端末の応答ボタンと同時にスピーカーのアイコンを押した。

端末のスピーカーはホワイトノイズを数秒間に渡って発し続けた。

首をひねる。いたずら電話の類いか？

ありがちな無言電話のケースとしては、無作為ないたずら、個人への嫌がらせ、ストーカー、詐欺の下調べ……固定電話なら在宅確認の目的であったりもする。固定ではないので今回の場合それは排除だ。様子を見るか、このまま切るか……手を伸ばしかけたとき、ようやく応答があった。

『例の件を覚えているな』

あ、この地を這うような声は。

ピタリと指先が宙に留まる。これは初めてのことだ。なぜジンが直接私に連絡を？

「……あー……」

もちろんその聞き間違えようのない声で確信はしたが、実際に会ったのはあの工事現場での一度きりだということも同時に思い出し、咄嗟に発しかけた決定的な言葉を単音で濁した。

「えーと、例の……というのは、米花シティホテルの？」

『そうだ。明日の船にはボックが同乗する。詳細は奴に聞け』

「詳細って……いつもなら事前に知らされるけど」

またアイツか。っていうか船に潜入するならそれこそ初登場時にウェイターやってたバーボンだろ、全然名前出てこないけど都合悪いのか今回。

……しかしなるほど、あの件と今回の仕事には繋がりがあるようだ。

でも、今までの仕事とはやはり何かが違う。私がそれを電話口に零すと、また数秒の無言が返された。

そもそもクルーズ船という閉鎖空間自体、探偵などの調査には向かない。対象と不意に鉢合わせたり顔を覚えられる可能性が普段の環境と比べても格段に高くなるせいだ。

もしかしたら、今までとわけが違うというのは────……

次の瞬間、私は絶句した。

『殺しだ』

「殺……え？」

『何せ組織を欺いた裏切り者の処刑だからな。大役だぜ』

「……じゃあ、あの男はやっぱり……」

『ああ、しぶとく生きてやがった』

やっぱり、と言うからにはさほどの驚きはなかった。

あのまま終わるには釈然としなさすぎる、腑に落ちない感じ。ホテルでの事件は恐らくほぼ全てが自演だったのだ。

死んだはずの男は自身の死を偽装して今も生きている。

そして明日、あのクルーズ船に乗る。


……そうか。


いつもと、勝手が違うわけだ。

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