Ep.144 静かな夜 ページ44
「……いつかはな」
それは少し、気になる言い方だった。
「とはいえ、オレが行方を眩ませたら戸籍上の縁を切れと言ってあったから戻ったところでとっくに他人だろ」
「そ、それでか……いつの間にか離婚してたのは……」
「まあなんだ、お前が先に帰れたら元気にやってたとでも伝えといてくれ」
「え、嫌だよ。お母さんの前であんまり父さんの話に触れたくないし」
「……もしかして反抗期か」
「反抗期のレベルで済むと思ってんのか??」
父親ってのはどんなに久々に会っても鬱陶しいものなのだろうか。
昔からそうだ、余計なお世話と見当違いなお節介ばっかり。上手く言葉には出来ないけどいちいち癪に障る奴だった。
苛つきを隠さずに目の前を横切り、ガラス戸を押し開けようとしたときにふと思い出して振り返る。
「……あと、気になるからこれだけ教えて。私を組織に勧誘した日、盗聴器をバーボンに渡させようとしたのってどういう意図?」
「アレか。いや、特に深い意味はなかったが」
「は?じゃあその深くない意味ってのは何なわけ?」
「いやなに、ニュースかなんかで見たことあってな、名探偵コナンのバーボンって言うと指折りの人気キャラだろ?」
「確かに人気だけど、それと盗聴器がどう繋がるって……」
「そんな奴とお前が何をどう話すのか聞いてみたくて」
「……」
「しかし思ったよりテンション低かったな。好きなキャラじゃなかったか? 実際のところは誰推しなんだ?」
下世話。
大きなお世話通り越して下世話だそんなもん。
「あの状況下で呑気に舞い上がるほどハッピーな頭してねえわ!」
「はっはっは」
「どつき回されろクソ親父!」
呆れ果てて背を向ける。もう知らん。目的を同じくする戦友として言葉をかけてやってもいいと思っていた気持ちが綺麗さっぱり消え去った。
扉を押し開け、私は一人その場を後にした。
「────やりたいようにやれよ」
ガラス戸が閉まりきる寸前、微かな夜風に乗ってそんな言葉が聞こえた、ような気がした。
妙な感じがしてもう一度振り返る。が、扉の向こうに人の姿はなかった。
「……なんなんだ」
まるで後ろ髪を引かれるような思いを振り切って、非常灯でぼんやり浮かび上がる通路へ向き直って歩を進めた。
────静かな、夜だった。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時