Ep.09 高校一年生 ページ9
探偵。
今となっては身近な、ひとつの単語が頭を過ぎった。
探偵団とともに現場に居合わせた灰原は、小さく縮こまって目を閉じる、一人の少女を見つめた。
「そういうこと。……簡単でしょ」
「……」
確かに、考え方自体は単純なものだ。けれど言われるまで、私たちは誰一人、五階の窓なんて見上げはしなかった。
高い建物に会社員らしき男性。屋上から飛び降りたのでは、という先入観があったから。
少女はそう言うと顔を伏せ気味にして、苦々しげに眉を寄せた。顔色も良いとは言えない。
彼女の制服は少なくともこの辺りでは見たことがなかった。黒の前開きパーカーを羽織り、肩には艶のある学生カバンが提げられていたが、今は傍らに置いている。ローファーもカバン同様に新品にも見紛うほどに艶がかっていた。顔立ちに残る幼さにしても、高校一年生と見て間違いないだろう。
これくらいの少女なら、たちが悪ければ野次馬に混じって写真でも撮り始めるか、精神的ショックから来る自律神経の乱れによって脳への血流不足で失神するか、何も出来ずに立ちすくむのがせいぜいだ。
十分、気丈と言っていい。私たちが慣れてしまってるだけで。
「ねえ、あなた……」
「灰原さん」
「……!」
「……だよね。さっき呼ばれてた」
声をかけると、顔を伏せたままそう答えた。
さっき……。数分前を思い出す。小嶋くんが手を振って、私と"彼"を確かに呼んだ。
「ええ、でも……どうして私の方が『灰原』だって分かったの?」
「……男の子が苗字で呼ぶなら、女の子の方だろうなって」
「そう……」
「それで灰原さん、どうしたの」
「別に。なんでもないわ」
心配をしたつもりだったけれど、思いのほか声色は参っていないし、初対面の人を甲斐甲斐しく慰めるのは得意ではないので、そのままふらっとそばを離れた。
事件が起こる数秒前、彼女はなぜ私達を……"彼"を呼び止めたのだろう。
例えば彼女がこの事件の犯人で、何らかのトリックを使って遠隔で遺体を落とし、投身を偽装した……と考えれば辻褄は合う。その際、たまたま通りかかった子供を巻き込みたくなくて、思わず制止してしまったとしたら。
ただ、結果的に私たちは何事もなく通り過ぎ、直後にあの遺体は出現した。彼女が犯人だとすれば、このタイミングはいささか不可解だった。
"彼"は彼女を容疑者としてこの場に留めることを求めたけれど、女子高生がサラリーマンを殺す動機って何?
……何なのかしらね、工藤くん。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時