Ep.30 全て夢なら ページ30
オートロックの音を背に、部屋のシングルベッドへカバンとレジ袋を放り投げる。
そのままの勢いで、靴も上着も脱がずに自分の身体まで投げ出した。ぼすんと空気の逃げる音と、ふかふかの布団が身体を包む。
枕に顔を押し当てて叫んだ。
「世良さんじゃん!」
今さっき、ホテルの廊下ですれ違った、知ってる顔だなと思った人間。気付いた瞬間に綺麗な二度見をかましてしまった相手、それは世良真純だった。
名探偵コナンの登場人物であり、女子高生探偵。蘭や園子の同級生で高校二年生……つまり三人とも、私より一つ年上である。
「絶対世良さんだあれ……。駅中、街中と来て今度はホテル内……?」
こんなところでも出会うなんて。なんかこれ、そういうパターン入ってるんじゃ……。
……。……もしかしてこのホテルで事件起きるパターンのやつか? これ。
いや、分からん。世良さんといえば日本ではホテル暮らしのはず、こういう場所にいるのは何もおかしくない。もしここにコナンがいようものなら殺人事件は免れないが、ひとまず今のところはそうじゃない。
今は、何も起きないことを願うだけだ。
っていうかこんな普通のホテルにいるとは思わないよね。確かに平日特価でどこも安かったから、ビジネスホテルより快適だろうなって思って大きめのシティホテルにしたよ。でもいるとは思わないじゃん。
「……お風呂入って寝るかあ」
考えたところで何にもならない。薬局で買ったコンタクトレンズの保存液と、アメニティの歯ブラシなどを持ってバスルームへ向かった。
────寝付けない。
照明を落とした部屋で寝返りを打つ。デジタル時計が緑色の数字を浮かび上がらせる。二時二十一分。
本当はさっき一度寝た。でも夢を見て起きた。
目の前に死体が転がる夢。遥か高いところから人間が落ちてきて、目の前で真っ赤に破裂する夢。
……ことのほか私は、あの件でショックを受けていたようだ。
でも寝ないことには体力も回復しない。精神的にもそうだ。瞼を閉じて、とにかく何も考えないようにした。
────……。
明日。
朝になって、明るくなって、目が覚めたら……。
いつもの部屋で、いつもみたいに目が覚めたりして。
電車の中で、学校に遅刻しててもいい。
全て夢だったなら。
少し寂しいけれど、それならばいいと。
そんなことを思いながら、光ひとつない真夜中の暗闇に沈んだ。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時