ペトリコール (ページ8)

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拓弥さんに会いたい。会ってこの前のこと謝りたい。

傘を持って出かけても雨は降っていない。

雨が降っていれば、拓弥さんに会える気がして晴れていても傘を持つようになった。

「もうすぐ文化祭だね。」

『…あ！文化祭！！』

「えっ！？何！？そんな大きい声出して。びっくりしたぁ。」

そうだ、文化祭だ。祐基くんが拓弥さんを連れてきてくれるんだった。

会える。きっとそこで会える。

『よし、佑亮！気合い入れるよ！』

「え？ちょっと、良く分かんないんだけど。Aのそのスイッチどこにあんの？」

『良いから！行くよ！』

割と自分は単純で立ち直りは早いほうだと思う。でも、心のどこかで少し不安になってる自分がいる。

『いらっしゃいませ。…久しぶりですね。』

「Aちゃん～！久しぶり～！」

久しぶりに来店した祐基くんが、わたしに抱きつこうとするところを小笠原さんが引き離してくれた。

『ありがとうございます。いつものお席どうぞ。』

拓弥くんもふらっと現れないかなってちょっと期待してるけど、あの一回以降ここには来ていない。

『祐基くんたちって、ダンス部だったんですね。わたしの幼馴染もダンス部で、この前の大会見ました。』

「え、まじ！？見てくれたの？どうだった！？」

『…かっこよかったです。』

拓弥さんが…真剣な表情で踊る拓弥さんが。

「あ～～もう、俺は幸せだ。ダンスやってて良かった。」

『あ、あの…これ。今度の文化祭のしおりです。わたしのクラス、カフェやるので良かったら来てください。』

「行く！絶対行く！」

『小笠原さんもこれどうぞ。あと……』

なんだか二人に知られたくなくて、その先の言葉が出ない。

「あと…？」

『………あと、拓弥さんにも…渡しといて下さい。』

小笠原さんは、何かを察したのか優しく微笑み頷いてくれた。

『ありがとうございます。』

ちょっと安心した。それも束の間。

「でも、俺は渡さないよ。拓弥に。」

『え…？』

「自分で渡しなよ。Aちゃん、21時でバイト終わるんだよね？拓弥と21時にこの下で待ち合わせてるから。自分で、渡して。」

小笠原さんから突き返された文化祭のしおり。会いたい会いたいって思っているのに、勝手に気まずくなっていざ直接会うとなると言葉に詰まりそうだ。