【2j3j】通暁リベラル【ヤンデレ】

麝香の口付け/ N.Kei ページ3

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「……っ。」
「それ、長尾より必要？」

嫉妬の紫炎が揺れる、揺れる。乾いた唇から吐いたのは詰まる様な息ばかりである。ぎ、と奥歯を噛み締めて微かに顎を震わせた。彼の扱いは兎角難しい。水面に浮いた茶柱の様に脆く、慎重にならねばなるまい。ピュアでいる事がこれを防ぐに最も効果的であろうが、私は其処迄優しくはなれない。

「まさか。」
「だよね。代わりにこれ持って来たよ。」

彼は甘えた声で頬を薄桃に染めて黄緑色の小箱を差し出した。包装を剥いで中を改めると葡萄の芳醇な香りの甘味がずらり、と並んでいる。輸入茶と相性が良いと巷で話題の猪口冷糖の様である。それなりの金額のする代物に驚いて思わず頭を勢いよく上げて彼を見た。

「これ、高い奴ぢゃ、」
「気に入った？Aってこういうの好きでしょ？」

天から金をばら撒いて、それに群がる人間を観察する神の様な視線だった。確かに唐突の幸福であれど、私はそれを芯から喜ぶ亜種では無いので訝しげに彼を見上げるばかりである。血色の良くなった頬と酒気に蕩けた瞳が私の心をぎちぎちと惑わせてゆく。

「殊勝な奴ぢゃ。愛い愛い。」
「でしょ？俺が一番Aの事、分かってるって。」

箱の中身は様々な果実酒をテーマにした珠玉のもので実に洗練されている。それなりの付き合いの所為で彼は私の趣味を完璧に把握していた。私の所有物を勝手に棄てたと思えばこうして貢いで来る。すっかり彼に絆されたのだなあ、と思う。

もう手元に残ってる最初からあるものなんて彼位になって仕舞った。だから益々手離せない。彼を棄てれば所有物が消える事も勝手に増えることも無いと頭では分かっているのに、最後に残った彼迄棄てたら一体手元に何が残るというのだろう。艶々と並んだ貢物を一粒摘み上げて口に放り入れる。爽やかな苹果の香りがした。

「何が望みぢゃ？景の頼みなら叶えてやろうぞ。」
「ちょおっと、手ぇ貸して欲しくってぇ。」

母性を擽ってはうるおいに満ちた弾んだ声で茶化す様に依頼を話し始める。誰も知らない24時。寂れた看板の明き電燈の下で跋扈する私等は何時でも闇の中。また唇をうるおす為に盃を傾ける。とろり、とした赤酒は数刻後には血の味だ。

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