Book Maker / nisn ページ8
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彼は手綱を掴んでいた方の手を離し、私の頭に乗せた。嗚呼、崇高なる彼の手が私の頭に!良い!とてもいい!彼の手の感触を味わって至福に浸っていると彼は優しくその手を私の頭頂から額まで緩慢に滑らせた。あまりの歓喜についていけなくなった身体に電流が走る。ぞわぞわと甘い歓喜が背を伝う。あまりの幸福に嘆息すれば、彼は唐突に自身のポケットに録音機を突っ込んだ。
「Aはほんまにええ子やなぁ。ほらおいで。」
「……わん。」
彼の美しい紫水晶が美しく三日月に切り取られる。私はそれだけで胸を締め付けられて彼に傅きたくなってしまうのだ。主人に両腕を開かれて我慢出来る犬はいない。私は彼の胸な一直線に飛び込んだ。彼はぐらり、と上体を傾ける事もなく、その逞しい腕で私を抱き留めた。彼の胸に頬を寄せれば彼は私の頭を慈しむ様に撫で始めた。彼の匂いが鼻腔を満たし、肺に満ちる。匂いを感知した脳味噌は至福と安心を得ていた。とくとくと拍動する彼の心音。今の状態全てが私を安寧へと導いていた。私にとって最上級のご褒美だ。彼は暫く撫でた後に私を抱え直す。
「そんなええ子のAに質問。カメラの位置を教えて欲しいんやけど。」
「ぁ……っ。」
耳元で囁かれた甘美な声は私には刺激が強かった。鼓膜に染み渡り、震える心地が堪らなくて微かに声を漏らしてしまう。ずくり、と身体の芯が震えた。彼の声がぴきぴきと私を支配してゆく。彼はすぐに答えなかった私を訝しく思ったのか、いつのまにか握っていた手綱を控え目に引いた。
「聞こえんかったか?それとも聞いとらんのか?」
「聞こえております。あなたの声を聞き漏らすなんて醜態、晒せません。」
彼に手綱を後ろに引かれた所為で彼の御尊顔が露わになる。眉目秀麗な彼の顔に不覚にもどきり、と鼓動が高鳴った。その顔はありありと不機嫌の感情に彩られている。やはり彼は憤怒に塗れた表情も格別だ。許されるのならば何度でもこの瞬間を噛み締めたいと言う程に至高極まれり。眼前に拝す彼は手綱を引っ張る手とは反対の手で私の首輪に付いているネームタグを優しく摘んだ。たった一言で私が卑しく浅ましいと分かる言葉が刻まれている。彼は満足気に笑った。
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- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください!!!!(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……?さくら……さく……ら……?桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
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