【wrwrd!】桎梏ダイナミズム【短編集】

ジュエルボックス/ eml ページ16

#



彼は少し頭のおかしい人間だった。頭が良過ぎたのが原因なのかもしれない。彼は三人兄弟の長男で良くも悪くも周囲から与えられる影響が大きかったのだろう。幼少より両親から外出を禁じられた。当然だろう。彼は生来肌が弱いのだから。未だ大人になっても病的に青白い肌と細い体躯が彼を病弱に思わせる。彼は室内でしか娯楽を与えられなかった。

けれど彼の兄弟はまだ幼く彼と飯事が出来る年では無かった。必然的に彼は一人遊びを強要される。綾取り、折紙、粘土遊びにお絵描き。積み木に人形遊びに怪獣ごっこ、縄跳びと一人遊びは巡るましい程に尽きぬが彼は元々不器用だ。必然的に綾取りや折紙、積み木遊びは苦手で次第に遊ばなくなった。

また彼はその不器用さが祟ったのか、それは芸術面にも侵食していた。結果的に粘土遊びやお絵描きは周囲の人間に揶揄われて二度と彼がする事はなかった。また縄跳びは外出を禁じられた所為で体力がおぼつかず彼にとって楽しい遊びとはいえなかった。怪獣ごっこや人形遊びも一人では限界がある。彼は次第に本に縋る様になった。

本を読みだした彼の成長は凄まじかった。あらゆる知識、想像力、行動力、善悪の有無、人の心。そういう物を理屈では無く、感覚で理解し始めた。齢が二桁になる頃には読んだ話は三千を超えた。絵本だけで無く、昆虫記、動物記、料理本、冒険譚、この頃には少しずつ文学にも興味を持ち出した。そんな賢い彼は周囲からどう見られるだろう。

決まって阻害された。倦厭され、弾き出された。一人で何とかしなさいと言われた彼は一人で何でも出来てしまう。何でも出来てしまうから助けを求める事を知らず、それに手を焼かれる事もなかった。彼はいつでも一人ぼっちだった。知識を会得した彼は情緒の会得も早かった。だから余計に無邪気に傷付けられてしまったのだ。

彼は心を壊した。思春期に入る前に彼の心は壊れてしまったのだ。彼は怒りを忘れた悲しみも忘れた。嬉しいと思う気持ちも曖昧になった。心の声がストレスの度合いが彼は分からなくなってしまった。ただ楽しい、心が高鳴るという情緒のみが彼に残された。彼は同情もしなかった。故に殺生の嫌悪が分からなくて、私を。

金縛/ cino→←ジュエルボックス/ eml

• 金　運: ★☆☆☆☆
• 恋愛運: ★★★☆☆
• 健康運: ★★★★★
• 全体運: ★★★☆☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す