反射した幸せ ページ6
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「ただいまあ。」
随分気の抜けた挨拶が無機質な空間に木霊する。それはいつもよりずっと待ち焦がれたもので1番に聞きたかった声だ。二人きりの玄関に空気の境界線が出来上がる。彼は冬特有のひんやりした氷を温度を屋内に運び込んだ。
彼とは移り変わる梅のなる時期から半年ほど同棲している。時間は随分過ぎたにも関わらず、未だに彼にときめいてばかりだ。玄関に置いたアンティーク調の古びた時計は午後八時二十五分を示している。
「おかえり。随分と遅かったね?」
社畜とは無縁な彼にとってこの時間は遅い。彼は数少ない定時帰宅保持者でしかも呑み屋に寄ったりはしない。真っ直ぐ私たちの家に帰ってくるからだ。いつもは七時にはこの姿を眺めることができる。今日は何故か遅かった。理由は知らない。
「今日はたくさんしなきゃいけないことがあったから」
彼はそうはにかみ、玄関先で脱いだコートを腕にかけ、カバンを持つ。丁寧に靴を揃えてこちらに向き直った。くつろぐはずの家の中でさえエスコートする彼に最初は目を丸くしたものだが、慣れればそうでもない。日本人は自己を主張しない民族だから仕方ないよね。
それにしても茶を濁すような有耶無耶に返す彼。まあ。彼はそんなタイプの人間だから今更気にはしないが、やはり腑に落ちない。そんな風にされるとかえって心配だ。彼は我慢する節があるから。洞察力が人より秀でている彼に心配していることがバレないようにそっと目を伏せた。優しい彼は己のことを差し置いて、私の細心を気にかけて彼の気苦労を増やしてしまうだろうから。
彼が今日、帰りが遅くなった理由は敢えて聞かない。いや、聞く必要がない。そんなことを逐一把握するなんて馬鹿げている。彼は私の物ではない。彼は一人の人間なのだから彼が話さなければ深追いする必要もない。ただ、数少ない定時帰宅保持者なだけあって、彼は仕事に追われている。その分、彼と過ごす時間が削れてしまうのは仕方のないことだと分かっても悲しかった。表情にもましてや、口にも出さなかった。露ほども。
彼の考えを行動を選択を思想を、私が止めてはいけない。彼は一人の人間であるから彼は自由に人生を生きるべきだ。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯さん» リクエスト消化してくださりありがとうございます!流石鵯さま、期待以上のお話が読めて嬉しい限りです。良ければまたリクエストさせてくださいね。ありがとうございました! (2017年12月29日 19時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(プロフ) - (´・ω・`)Loveさん» 大丈夫ですよ。ありがとうございます。気長にお待ちくださいませ。 (2017年12月28日 21時) (レス) id: 10532b6a12 (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯のさえずりというページは消されたみたいですけど、リクエストってまだ受け付けてますか?もし大丈夫でしたら飴の出てくるほのぼのとしたお話が読みたいです!……こ、こういうリクエストも平気ですか? (2017年12月28日 10時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年12月20日 18時