浪漫は待たない ページ4
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「大丈夫ですよ。また貴女の珈琲飲みに来ますから」
彼は朗らかにそう言い放つとコトリと代金を置いて喫茶店の窓から雑踏に消えてしまった。あんなに日向に目立つ軍服も雑踏に紛れれば滲んで分からなくなってしまう。
ただ切なげに置かれた白磁の珈琲カップが彼の白さを一層引き立て、殺している。
「戦争に行くんだ。」
あれから日が経ち、また彼がここを訪れた。いつものカウンター席でいつもの珈琲を注文してくれた。唐突に告げられた言葉。でもいつかはこの日が訪れることを知っていた。分かっていた、
つもりだった。
彼の誇り高き軍服には沢山の勲章が所狭しとつけられている。その一つ一つを彼に説明してもらったとしても一部も理解できないだろう。けれどその一つ一つが彼の信頼で彼の凄さを語ることができるのだから人とは醜いものだ。
彼が、彼が。逝ってしまう。
ただその念に駆られて無性に悲しく辛くなる。
「大丈夫だよ、また帰ってくるから。男に二言はないよ。」
そうやって微笑むから優しくするから別れるのが、見送るのが苦しくなる。今、この瞬間を凍らせてしまいたいほどに、苦しい。
「お嬢さんを心配させるなんて女々しいね、俺は男として頼りないのかな?」
「そんなこと、ありません!」
彼はただ冬の梢に謳う鳥のように朗らかに笑った。優しい顔。平和ボケしたような束の間の幸せと浪漫。頬杖をついた貴方がそれを解いてずいっと私に近寄る。
「じゃあ、待ってて。またここに来るから。」
彼のネイビーの黒々とした瞳が眼前にあって。レンズの向こうの奥深くから伝わる思いは真剣で。ああ。これなら信頼できるなって。
「必ず帰って来てくださいね。」
「うん。任せろぉ!」
彼は右手を私の頭の上に置いてワシャワシャと乱す。荒い手つきなのに何処か優しい。乱れた髪を整えて彼を見つめる。カウンター越しに撫でられた頭に残る温度が何処か暖かい。
彼は新聞を元に戻し、お勘定の準備を始めた。
いつも通りぴったりの金額。彼の記憶力の良さと几帳面さが伺える。お釣りをわざわざ勘定させるのが面倒だかららしいが、そういう細やかな気配りがさらに私を虜にさせる。彼は今日はカウンターには置かず、代金を手のひらに乗せてこちらに差し出した。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯さん» リクエスト消化してくださりありがとうございます!流石鵯さま、期待以上のお話が読めて嬉しい限りです。良ければまたリクエストさせてくださいね。ありがとうございました! (2017年12月29日 19時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(プロフ) - (´・ω・`)Loveさん» 大丈夫ですよ。ありがとうございます。気長にお待ちくださいませ。 (2017年12月28日 21時) (レス) id: 10532b6a12 (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`)Love(プロフ) - 鵯のさえずりというページは消されたみたいですけど、リクエストってまだ受け付けてますか?もし大丈夫でしたら飴の出てくるほのぼのとしたお話が読みたいです!……こ、こういうリクエストも平気ですか? (2017年12月28日 10時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年12月20日 18時