念捌の巻 ページ35
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「失礼します。」
「入れ、」
空気がピンと張り詰める。緊張の二文字が頭に浮かんで重くのしかかる。
さっきまで笑っていた家臣たちの顔からも笑みが消え、凛とした表情で渉様の後ろに座る。
渉様に手招きされると、すぐ横に置いてあった座布団に私は座った。
「吉原の遊女か・・・。」
「ええ、そうでございます。家康様と吉原にご一緒させていただいた時に出会いました。」
家康様の顔を見る、旗本にならないとご尊顔出来ない偉いお方。旗本になるのも武士のほんの一握りなのに、吉原の下っ端遊女が顔を見ることができるなんて運の尽きか。
とにかく、家康様に気に入ってもらわなければ。また吉原に出戻りしてしまう。それかどっか遠くの家へ嫁ぎに行かせられるか。
どっちにしろ、渉様やその家臣の元では暮らせない。大金をはたいてまで私を買ってくれた、渉様の元で家臣たちと仲良く平和に暮らしたい___
気づけばそう思っていた、そう思うのも普通なのだろうか。
「ご尊顔を拝し、誠に光栄でございます。この度吉原遊郭から参りました、津々楽和歌と申します。これからは吉原遊郭を離れ、浦田家にお世話になろうと考えております。」
床に額を押し付け、家康様に向かって礼。緊張の二文字は未だに肩に重くのしかかってくるが、ひとまず安心した。
「もっと絢爛豪華な遊女かと思ったのじゃがな。」
「え?」
「遊女らしからぬ遊女じゃ・・・。着飾ることを知らない禿のような。」
馬鹿にされてる気がしなくもないが、とりあえず今は家康様の言葉に耳を傾ける。
「渉殿らしい。名を和歌といったな?津々楽という大名は知らぬが・・・・浦田家で生活することを許可しよう。」
「本当でございますか。有難うございます。」
と、家康様が言い放った瞬間。後ろで「よしっ!」だの「仲間が増えたな〜。」だのの声が聞こえてくる。
隣の渉様は少しばかり微笑んだだけだ。相変わらずの読めない顔。翡翠の目はしっかりと家康様を捉えていることだけしかわからぬのだ。
「そして渉殿。この女子を屋敷に向かい入れるにあたり、二の丸増築量として100両を差し上げる。二の丸増築量という名目じゃが、実際は好きに使ってよい。わしからの祝い金じゃ。」
「謹んでお受けいたします。」
そうして私は、晴れて浦田家にお世話になることが決まったのだった。
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イチゴミルクキャンディ@サブ垢(プロフ) - PE@みたらし団子バカさん» わー!ありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月18日 19時) (レス) id: e98fc17c66 (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - 更新頑張ってください! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
PE@みたらし団子バカ - これは私の好きな種類の話だ! (2019年8月17日 19時) (レス) id: b72e644e8b (このIDを非表示/違反報告)
いまりちゃん - もでらーと。さん» ありがとうございます!!(パソコンから返信しています。)そしてそしてもでらーと。様は様々な小説を書いていらっしゃるのですね!お星さまが坂田さん色で憧れます(笑)更新頑張ります! (2019年8月3日 22時) (レス) id: 42f8b00619 (このIDを非表示/違反報告)
もでらーと。(プロフ) - おもしろいです…!私、歴女&crewなので超嬉しい組み合わせです!更新楽しみに待ってます! (2019年8月3日 18時) (レス) id: 5d5b1bd419 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イチゴミルクキャンディ | 作者ホームページ:プロ野球
作成日時:2019年7月20日 20時