野良猫 ページ11
■■
Side:いづみ
「Aがいない…!」
息を切らした密さんが談話室に入ってくるなりそう言った。
言われてみれば、朝から姿が見えない。
「ボクが起きた時にはもう部屋にいなかったよ」
「珍しいな。学校の日はいつも俺が起こしても寝てるのに」
「寮にも、劇場の方にもいない…。家出?」
「そういえば、Aの唯一持ってきていた鞄も無くなっていたね…」
家出って歳でもないと思う。
東さんの一言で顔色を変えた子たちは慌てて「探してくる!」と寮を出て行ってしまった。
「俺、まだ挨拶もできてないです…。探しに行ってきます!」
「俺はいいや」
「僕も…あの人ちょっと苦手で…」
そうこうしている内に何人かは探しに出て行ってしまった。
家出じゃないにしろ、荷物を持って行ったことは事実だから何か理由があるかもしれない。
「左京さん、留守番お願いします!」
「お前も行くのか?! …はぁ、ったく」
左京さんは「生活費を節約したいだけだろう」と、Aくんのことを嫌っている。
劇団員も何人かは彼の事をよく思っていないことも、知っている。
…でも、ほんの数日だけど一緒にいて1人で台本を呼んでいる姿を何度も見た。
きっと、不真面目な子なんかじゃない。
〜〜〜
〜〜
Side:A
「密さん!」
「! こっち…!」
『あーあー…監督さんまで…』
久しぶりに馴染みの裏路地で1人、何も考えずに座り込んでいた。
息を切らした密に名前を呼ばれたときは心臓が飛び出るかと思ったよ。
…なんで俺なんかを探しにくるのかねぇ。
「何していたんです?!」
「ニャア!」
『まあまあ落ち着けって。シロも、大人しくしていてくれよ?』
「…この猫シロっていうの? かわいい」
足に擦り寄ってきた野良猫のシロを抱き上げて、思わず苦笑いを浮かべる。
『見つかるつもりはなかったんだけど』
「…Aはオレたちの家族でしょ? いなくなったら、寂しい」
『…。俺はそんな価値のある人間じゃない。それに…』
「「「A!!!」」」
…嘘だろ。
何でこんなに大勢で、こんなに汗だくになって、俺なんかを探すんだ?
俺なんかいなくなったって、何も変わらないだろう…?
「心配させやがって!」
「隣にAがいないと、ボクは安心して眠れないよ?」
「…家族の心配するのは、当たり前」
そう言って頬に触れた密の手は…とても暖かかった。
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あーか(プロフ) - 続き楽しみにしてます。 (2020年4月3日 17時) (レス) id: 460cee1a24 (このIDを非表示/違反報告)
哲弥 - あの…もう終わりですか? 俺楽しみにしてるんで、頑張ってください! (2019年6月6日 17時) (レス) id: 9dda0ba0f7 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ひなさん» ありがとうございます!精一杯書かせていただきます! (2017年9月6日 21時) (レス) id: 77b318de68 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - サカナさん» ありがたいお言葉…励みになります!ありがとうございます! (2017年9月6日 21時) (レス) id: 77b318de68 (このIDを非表示/違反報告)
ひな - 続きとっても楽しみです!頑張ってください! (2017年9月6日 18時) (レス) id: 9dcf28c287 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノア | 作成日時:2017年6月7日 22時