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第漆話「水柱と少女と」 ページ10

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「A」

久しぶりに名前を呼んだ。人望の厚い彼女はいつも人に囲まれており中々、話をすることが出来ない。


『義勇さん!終わりました!』

「あぁ」


鬼の数は多かった為、二手に別れたのだ。戦闘中に鬼の血が飛び散ったのだろう。Aの白い頬についている赤い血を親指で拭った。


『わ、ありがとうございます!義勇さん』


無邪気に笑う姿に少し心臓が高鳴ったのを、誤魔化すように足を進めた。

その時、ふと道端に咲いていた花に目がいく。白い花だ。月明かりに照らされる花は、周りの景色を霞ませるほど輝いていた。何故か、その花に目が離せない。


『夕顔ですね』


見つめてしまっていたらしい。俺の横から顔を覗かせたAが白い花を見ていた。夕顔。初めて聞く名前に、俺は口の中で反復する。


「Aに、似ている」


口に出せば、驚くほどすんなりと俺の中に落ちる。そうか。彼女と何処か似ている部分があるから、惹き付けられたのか。

言葉が返ってこない事を不思議に思い、隣を見れば彼女は固まっていた。驚き、というよりは怯えに近い。何か、隠し事が露見してしまったようなそんな表情だった。

「どうした?」

『……ぁ、いえ』

何か悪いことを言ってしまったのだろうか、と思う程彼女の顔色は悪い。謝ろうとした時、先に彼女の方が口を開いた。


『そうかもしれませんね』


自嘲したような笑みだ。いつもガラス細工の様に輝いて俺を見つめる瞳は、今は暗くただ無機質に夕顔を見ている。


『夕顔は、夕方から夜にかけて花開くそうです。その姿が不気味だとか』


夜に咲く花と聞いて、彼女とはかけ離れていると思った。彼女は夜より、昼が似合う。陽の光を浴びて輝く……あぁ、そうか。


「Aは向日葵だな」


そう。夏の日に、黄色の花弁を大きく開かせ大輪の花を咲かせる姿の方がよっぽど彼女らしい。俺の言葉に、Aは驚いていた。


『夕顔とは真反対ですよ、それ』

「向日葵は太陽の花というらしい。そちらの方が、似合う。それに、」


夕顔にはあまり良い意味が無いのだと、何となく察する。Aは薄く笑うと、義勇さんと名前を呼んだ。


『夕顔の花言葉、知ってますか?』


Aの小さな唇が動く。それと同時に、強い風が俺達の間を吹きぬける。夕顔の花弁が散るのが見えた。白い花が夜の闇に溶けていくの横目に、彼女は笑っている。


『___ですよ』


結局、あの日のAの言葉は聞き取れなかった。

第捌話「音柱と少女と」→←第禄話「炎柱と少女と」



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作品ジャンル:アニメ
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時

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