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第伍話「蟲柱と少女と」 ページ8

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「それで、カナヲに言われなかったら貴方は手当しに来なかったのですね」

『うっ、すみません』

私のため息に、目の前でAさんは小さな体を更に縮こませる。少し可哀想になるが、こればかりは心を鬼にしなければ。なにせ、


「この怪我を自分で手当するつもりだったなら、私も怒りますよ」


こんな大怪我をしてきたのだから。真っ黒な隊服は見た限りではわからなかったが、触れてみれば真っ赤な血が掌を汚す。

私の言葉に、すみませんと笑う彼女を見るのは何度目だろうか。彼女は何処か、自身を軽視する所がある。その姿が、否が応でも姉と重なるのだ。


『私は、駄目ですね。カナヲにもしのぶさんにも、そんな顔をさせてしまうなんて』


余程、酷い顔をしていたのか。Aさんが悲しそうに微笑んだ。知っていた。彼女は優しいから、傷つく人がいれば自分の命を削ってでも助けに行くしかないことを。だから、


「大怪我してきても、良いんです。この蝶屋敷に"生きて"、帰ってきてくれるなら」


無理をしないでと願うのはもう、辞める。貴方が生きて帰ってきてくれさえすれば、私はそれで良いの。


『もしその約束を破ってしまったら?』

「カナヲ達が、悲しみます……勿論、私も」


彼女は私の言葉に驚くと、丸く大きな瞳をゆっくりと細めて、


『それは、嫌だなぁ』


困ったように、笑った。その言葉に偽りは見えない。でも、うなづいてもくれない。

すると、突然手を握られた。無意識に、力が入っていたのだろう。その仕草に、堪えていた言葉が溢れ出す。


「嫌なんです。貴方の今の姿は私の姉と同じで、鬼に同情するような優しいあの人に似ているからっ……だから、」

『私は、鬼に同情出来ません。そんな、慈悲深い人間じゃありませんよ』


だから、大丈夫です。と言った時の彼女の瞳は暗い。初めて、彼女の心の闇を見た。怒りや憎悪、汚い感情を彼女も持っていたのだ。


『すみません。私、そろそろ行かないと』

「Aさん……今度、甘味処に行きましょう。良い所を甘露寺さんに教えてもらったんです」

『ぜひ!!楽しみにしてますね』


このまま彼女を帰したら次に会えるのはいつになるかわからない。慌てて、約束を取り付けた。

彼女は先程の表情が見間違いかと思える程、明るく笑っている。


『ごめんなさい』


帰り際に、彼女が呟いた言葉。それが、私との約束を守れないことへの懺悔だと気づくのはもっと後になる。

第禄話「炎柱と少女と」→←第肆話「花と少女と」



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設定タグ:鬼滅の刃 , 愛され   
作品ジャンル:アニメ
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白猫さん(プロフ) - 泣きました。泣きました。 (2021年10月10日 20時) (レス) @page39 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - あと、今更なんですが、1話の「宇隨」ではなく宇髄だと思います! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新頑張ってください! (2020年9月27日 14時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
ちょこもち(プロフ) - mustardさん» コメントありがとうございます。最後の話は私自身、悩み悩んで書いていた部分なのでそう言って貰えると嬉しいです!夢主にも鬼滅キャラにも今世では幸せになってほしいです…楽しんでもらえて、良かったです^^ (2020年4月14日 22時) (レス) id: cb630583b4 (このIDを非表示/違反報告)
mustard(プロフ) - わぁ!完結おめでとうございます!!とても面白く読ませて頂きました。夢主ちゃんが最後に皆に会いにいく所で涙が出そうになってしまいました(笑)今世で幸せになって欲しいです。 (2020年4月14日 20時) (レス) id: e36ed0dc7b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年3月18日 17時

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