愛しい太陽【鬼滅の刃】

第拾玖話『罪状』 ページ26

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暗く不気味な闇の中を走る。目指す先は、一つ。暫く走り続け、見えた家に足を止めた。


『随分、古くなっちゃって……ごめんね』


見上げた先には、今にも崩れそうな一軒家。あの人と暮らした場所。あの日から、ずっと放置していた家は酷い有様だ。そこから少し足を進めれば、ソイツはいた。


「よォ、何年ぶりだ？嬢ちゃん」


舌なめずりをする忌々しいその姿は、あの時と何一つ変わっていない。ｰｰあぁ、やっと。やっと、


「やっと、お前を喰えるよ……!!」

『やっと、あんたを殺せるッ!!』


刀と鬼の腕が勢いよく交わる。月光に照らされた刀は橙色が揺らめいた。

(ずっと、この色が嫌だった)

初めて刀を手に取った日、絶望した。あの人と同じ刀の色だなんて。私がこの色を手にしていいわけがない。

だって、この色は太陽の色。あの人や、彼らのような人間にこそ相応しい色なのだから。

__罪の呼吸 弐ノ型 餓鬼

熱い空気が頬を撫でる。強い衝撃に、グッと足を踏ん張る。周りが火の海に包まれたが、


『……避けたの』

「オォ、危ねーなァ？一瞬で、全部燃えちまった」


手応えはない。炎の勢いが弱くなり、煙だけがあがる場所にソイツは気味悪い笑顔を浮かべながら立っている。

あの日、私は二つの罪を犯した。一つは、コイツを殺せなかったこと。恐怖に体を動かせず、師匠がこの化け物に喰われていくのを眺めていた。

そしてもう一つは、


「四年も待ってやったんだから、精々楽しませてくれよォ」


あの日、私がコイツに生かされてしまったこと。

師匠の変わり果てた姿に、私の思考は考えることを放棄した。私は何の感情も宿していなかったのだ。そんな私に近づいて、コイツはあの不愉快な声で笑った。


「最っ高に美味かった!!……お前も生かしとけばコイツみたいに美味くなるかもしれねェな」


その言葉に嫌な予感がした。何故目の前の鬼はすぐに、私に飛びつかないのか。


「よし、オマエは生かしといてやる。四年後、オマエを喰いに行く……精々、美味くなってくれよ」


その時、初めて死にたいと思った。
師匠を殺した、この化け物に生かされるなんて……惨めで情けなくて、悔しくて、今すぐにでもこの命を投げ出したいと。

前に、しのぶさんに言われたことを思い出す。私が鬼に同情しているなんて。そんなわけない。血肉と腐敗臭に塗れたこの生き物が、そんな生き物に生かされた私が、


『耳障りなんだよ、さっきから』


憎くて堪らない。

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