sin,6 ページ7
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結論だけ言えば、帰れなかった。
図書館で調べても、日本はおろかアメリカさえなかったのだ。そこで、私は異世界から来たという考えに至った。
無一文でこの世界の知識もない私は、学園長(クロウリーさん)の計らいで寒空の下に追い出されることはなかった。けれど、
『これは、さすがに……』
案内されたのは、今にも崩れ落ちそうな寮。蜘蛛の巣がそこら中で張っており、1歩歩く度埃が舞い上がる。
学園長は案内すると、直ぐに調べ物に戻ってしまった。1人の空間で、大きな溜息だけが響く。
(……なんでこんなことに、)
記憶は混乱しているが、元いた場所は私にとって生きづらかったのは確かだ。視えるモノから目を逸らして、怯える日々。それを周囲に悟られないよう、嘘を重ねる自分。
全て、投げ出してしまいと思っていた。でも、
『異世界に飛ばしてくれとは言ってねぇ』
神様もそこは加減を考えてほしかった。飛ばすならせめて、環境に適応させてから飛ばして欲しい。魔法が使えないなんて、厄介者扱いじゃないか。
__「この者のあるべき場所はこの世界のどこにも無い……無である」
鏡に言われた言葉を思い出して、片付けていた手が止まる。そう、厄介者なのだ。どこにも居場所が無い。結局、
『前と変わらないじゃん……神様のあほ』
私の呟きをかき消すように、雨が降ってくる。窓をうつ雨音がまるで、独りの私を嘲笑しているようで。酷く惨めな気分になる。
「ギャー!急にひでぇ雨だゾ!」
『!!なん、で?!』
「ぎゃっはっは!コウモリが水鉄砲くらったみたいな間抜けな顔をしてるんだゾ!」
聞き覚えのある声がいきなり聞こえた。慌てて、振り返ればさっき追い出されたはずの狸がふふんと得意げに笑っている。
「外に放り出すくらいで、オレ様を追い出せるなんて大間違いなんだゾ!」
『しぶといなぁ。ねぇ、どうしてそんなにこの学校に入りたいの?』
「そんなの単純な話なんだゾ!オレ様が大魔法士になるべくして、生を受けた天才だからだ!オレ様はずっと黒い馬車が迎えに来るのを待ってたんだゾ……なのに」
知っている、どれだけ望んでも叶わない願いがある。それが叶わないと知った時の悲しみも。
揺れる狸の瞳に思わず頬に手をのばした。柔らかな毛並みに触れると、狸は驚いたように目を丸くする。
「な、何するんだゾ!気安く触れるんじゃねぇ!!」
『ごめん、ごめん』
バンッと手を振り払われ、我に返る。ーー何してるんだ、私。
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作者名:ちょこもち | 作成日時:2020年4月24日 13時