花弁がよんじゅう ページ2
◆◇
「死にたくないからか?」
何も答えられない私に、冨岡さんがそう聞いた。うなづく私に冨岡さんの目が更に鋭くなる。
「命をかける気がないなら即刻去れ」
その言葉にやっと、この人が何故怒っているのかわかった。この人もなのだ。命をかけ人々を守ることが使命であり当たり前だと思っている。それが鬼殺隊の常識だ。
(でも、私は違うんだよ)
私は鬼に、家族を殺されたわけじゃない。
大切な人を鬼に奪われたわけでもない。
命をかけてまで、鬼と戦うに値する理由なんて私にない。
才能なんて望んでない。普通の生活が欲しかった。それだけなのに。それさえも叶わなかった。
『私だって好きでこんなことしてるわけじゃない!!』
気づけば、そう怒鳴っていた。私の言葉に、冨岡さんの目が大きく開かれる。
『皆が冨岡さんの様に、最初から誰かの為に命をかけられる覚悟があるわけじゃないんです』
「俺はそんな出来た人間じゃない!!」
ずっと、静かに怒っていた冨岡さんが初めて声を張り上げた。声はとても怒っているのに、
(なんで、そんな辛そうな顔をするんですか)
私を捉えているはずの蒼色の瞳は、私ではなく何処か違うものを見ている気がした。
「冨岡さんもAさんも、落ち着いてください。一刻も早く、那田蜘蛛山に向かわかなければいけないと言ったのは冨岡さんですよ」
私達の間に流れる雰囲気を壊すようにしのぶさんが笑顔で入ってきた。冨岡さんは、ハッとした表情になると私から背を向け那田蜘蛛山の方へと向かいだした。
「Aさんも。お館様の命令は絶対ですよ」
諭すように、言われ小さくうなづく。しのぶさんの優しい声に段々、頭が冷静になる。
(待って。私とんでもないことしたよね?!)
冷静になると今度は、自分が冨岡さんにとても失礼なことをしたのに気づいた。運んでもらった挙句怒鳴るなんて。
『あ、ありがとうございます。しのぶさん』
相手が不死川さんだったらと想像し、血の気が引く。慌てて、冨岡さんに謝ろうとしたが既に目でやっと確認出来るくらい遠くにいた。
『うぅ、炭治郎の優しさが恋しい』
任務が一緒になった、柱の2人とはそれなりに上手くやれていたから今回のことはかなり凹む。
「冨岡さんは自分にも人にも厳しい人ですから。落ち込まず、頑張りましょう!」
『……はい』
見上げた空は、どんよりしていて不気味だ。月さえも雲に隠れている。
(……帰りたいって言ったら怒られるかな)
2878人がお気に入り
「鬼滅の刃」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美穂(プロフ) - 凄く続きが気になります (2022年12月1日 22時) (レス) id: c0f42fdb83 (このIDを非表示/違反報告)
白猫さん(プロフ) - 面白かったです!! (2021年10月10日 16時) (レス) @page32 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新しないのですか?続きが気になります! (2020年9月8日 23時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
床に落ちてるゴミ - あれ?更新しないのですか?とても面白かったので続きが読みたいです! (2020年9月7日 18時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
日和 - 凄く面白かったです!ヽ(*´∀`)ノ続きが気になります!ゆっくりでいいので更新待ってます! (2020年9月4日 15時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ちょこもち | 作成日時:2019年6月27日 23時