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◇月下美人 3 ページ30

.

「ねぇ?それ…動いてない?」


くいくいっと
竿が反応していることを
教えてもらい
俺は
ゆっくりとリールを巻き
少しずつ近づく魚の存在に
覚醒してテンションがあがり
立ち上がりぐっと引き上げると
そこには
ハリにかろうじて繋がれてる小さい魚が
ピチピチと水を跳ねさせていた

「わーすごい!!」

隣の君が
可愛く
さっきまで漂わせていた
色気?
妖しさなんてなくなり
声をあげ無邪気にはしゃいでいた

「取ってみる?」

「むっ…むりっ!!!」

「全力で拒否るね?あははっ!なんで?跳ねるけど小さいし、大丈夫だよ?やってみる?」

「僕…ダメ…なんだよ。魚…触れない…」


さっきまで
無邪気に笑っていたのに
今度はフルフルと頭をふり
できないよ…と少し口を尖らせて
ふわふわの髪を風になびかせながら
俺を上目遣いで見てきた

月明かりに照らされてた瞳が
泣いているのか?と思わせるほど
水分を含んだ瞳が潤んでいた…

俺は
この短時間で見せる
コロコロとかわる君の姿に
魅入られていた

ゆっくりと針から魚を外し
そのまま
また海へと返した


「あっ………逃しちゃうの?」

「うん…いつも雰囲気だけ味わいにきてるだけだから…」

「くふふっ…何それ?変な人だね!お兄さん…」

「智…」

「えっ?……」

「俺…大野智って名前…君は?」



別に名乗らなくてもよかったんだ…
普段の俺なら軽くしゃべってなんとなく過ごしたらじゃあっ!って軽く帰る感じだったのに、優しく心地ちいい彼の声で俺の名前を読んでほしいと思ってしまった


「大野智…」

「ふふっ…うん、そう。あっ!智でいいよ…」


小さく
囁くように呼ばれた自分の名前が
すごく特別な名前なんじゃないか思えて
少しテンションが上がってしまった




.

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作者名:REN | 作成日時:2020年4月17日 11時

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