月下美人の君【蒙恬ルート.2】 (ページ11)

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琴瑟相和ページ11

目の前には、つい先日楽華隊の隊長として出陣した蒙恬がいた。

…嘘だ。

此処に居るはずがない。

そう何度も目をこすっても、目の前には
自分の愛した人の姿があった。

A「…なんで、…ここに…？」

絞り出した声は、情けないほど
弱し弱しいものだった。
…だが、あくまでも平常心を装わないと。

うまくやり過ごさないと…。
その想いで、Aは必死に涙を押し殺した。

そんなAの気持ちを知ってか知らずか

…ドンドンこちらへ向かってくる蒙恬。

近づけば近づくほど、

綺麗好きな彼の着物が、あちこち擦り切れてて

此処までくる道のりの険しさを

物語っていた。

蒙恬「………どこに行くつもり？」

責めるような声を無視して、

なんとか逃げようとするも、前に立ちはだかる。

A「これは…

ちょっと買い物に…」

蒙恬「こんなに大荷物で…？」

やはり勘のいい彼をごまかすのは、
無理なのかもしれない。

…それでも、行かなければならないと

蒙恬を隙をついて走り出そうとすると

腕を掴まれ…

そのまま引きづられるようにして

全身を抱きしめられたーーーーー

蒙恬「A…。

もう全部知ってるんだ」

A「………ッ！…」

力を入れれば、引き剥がせそうなのに…

蒙恬だけには、

乱暴なことは出来なかった。

蒙恬「向っていう宮女が、

急ぎの手紙で教えてくれたんだ。

A…辛い思いをさせて、ごめんね。

子どもが出来たって聞いた時は

確かに死ぬほど、嬉しかった…。

でもそれは、
Aと間に出来た子どもだからだよ。

誓ったでしょ…？

…死ぬまで愛するのお前だけだって」

蒙恬の抱きしめる腕が震えている。

もし少しでも遅かったら、
二度と愛する彼女を抱きしめる事が
出来なかったと思うと

怖くて、怖くてしょうがないのだ…。

A「だってっ………

私と一緒にいても……

子どもが出来ないかもしれないんだよ？

私、恬の子を

産んであげられないかもしれないっ…。

今ならまだ間に合う。

…どうか、他の人と幸せになって…」

そう言って微笑むAもまた…

宝石のような大きな雫を

ぽろぽろ…と頬に流していた。