第1話 ページ1
♢
「……頭おかしいんちゃう」
第一声は、こんな感じだ。
私の彼氏、と紹介されたクロオと言う奴は、ラフな開襟シャツを着て、玄関に立っていた。
俺の額に冷や汗が滲む。
「おかしいやろ、A」
「え？なんか怒ってる？」
当の本人は、きょとん、と首を傾げるばかりだ。
俺はまるで威嚇するかのようにクロオを睨んだ。
「どーも、オサムくん」
その余裕たっぷりな笑みが気に入らず、俺は黙ってソファーに寝転んだ。
「嫌われてるじゃん、俺」
「おかしいなぁ」
(おかしいも何もあらへんわ！)
だって俺は、Aが大学生になり一人暮らしを始めた時から、ずっと一緒に住んでいたのだ。
確かに付き合っていなかったことは認める。
しかし、俺は何度も彼女にキスを強請ったし、彼女もそれに応えてくれていた。
「なあ、キスしようや」
「ふふ、オサム、ちゅーしたいの？」
Aは俺の耳の裏を撫で、こう、擽るように触るのが好きだった。
「好きだよ、大好き、オサム」
と、彼女は何度も俺に言ったのだ。
それで付き合っていないのもおかしな話だろうけど、でもお互い、付き合おうという話にはならなかった。
……遊びだった、と言うことだろうか？
あんなに俺を愛してくれていたのは嘘だったのだろうか？
むすー、と不貞腐れていると、俺の隣にドカッとクロオが座った。
「アー……エート、仲良くしませんか？」
「する訳ないやろ」
一蹴して俺はAの部屋に篭った。
勿論クロオに対しての怒りがふつふつと沸いていたが、Aに対しても同じだった。
(何でなん？俺の勘違いやったん？)
(そもそも、男と同居しとる女とよう付き合えたわ)
出ていけと追い出されないのが幸運だった。
俺が部屋でしくしく泣いても、部屋の外から穏やかな二人の話し声が聞こえるだけだ。
♢
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 68人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
小鉢メニュー(プロフ) - ぬーすけさん» ぬーすけさん、有難うございます･･!! そう言っていただけて本当に光栄です!! (2020年8月11日 10時) (
レス) id: 801831de2d (このIDを非表示/違反報告)
ぬーすけ(プロフ) - コメント失礼します。久しぶりに心がざわついた感じになりました。引きずらずに短編でさらりと終えたのがよかったと思います。完結おめでとうございました。 (2020年8月6日 6時) (レス) id: c29458b0d8 (このIDを非表示/違反報告)
小鉢メニュー(プロフ) - うにさん» うにさん！有難うございます嬉しいです！！ (2020年6月29日 21時) (レス) id: 801831de2d (このIDを非表示/違反報告)
うに(プロフ) - びっっっっっっくりしました.....とっても面白かったです！！！！！！！！！ (2020年6月29日 18時) (レス) id: ce4cd01202 (このIDを非表示/違反報告)
小鉢メニュー(プロフ) - しらすさん» しらすさーーん！涙 ウッウッ有難うございます涙 (2020年6月29日 12時) (レス) id: 801831de2d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鉢メニュー | 作成日時：2020年6月28日 18時
