・ ページ20
「……ですが、その、どうして菱田さんは私にお会いしたいのでしょう」
「将来的にも、お前と菱田くんには上手くやって欲しいんだ。菱田くんもお前を気に入っているそうだしな」
「そう、なんですね」
つまりは、父親同士の仕事上の関係性を今後ともスムーズにするため、結婚という名の縛りを課したいのだろう。
立場としても、こちらは支援を多く受けている側であり、菱田家には頭が上がらないのだ。向こうがそうしなさい、といえば父はそれに頷く。そして、Aを利用する。いつだって立場が下になるのは弱々しい女のだと、改めて痛感させられてAは心の中で嘆息するのだった。
いっそのこと、こんな家なくなってしまえばいいのに。
財力があればあるほど、人は傲慢になる。それ以上を望みたくなる。その度にAはこの家の傀儡として利用され、尊厳を失い縛られてゆく。それならいっそ、この家がなくなってしまえばいいのに、と何度願ったことだろう。
しかし、Aの家の比にもならないほどの大富豪であるのに、玲王は幸せそうだった。少し、両親といざこざがあるような様子も一時見られたけれど、彼は前向きに見返してやろうとしているのか、俄然燃えていた。
Aは玲王のようにはなれない。彼のような器がないからだ。欲しいものはなんだってこの手から滑り落ちてゆくし、自由もない。羽を失った哀れな小鳥も同然だった。女という性を授かったせいか、それともただ単に自信がないからか。
羽を捥がれて千切られて、やがて廃れてゆくAがこの檻から羽ばたくことは許されなかった。硬く硬く閉ざされた檻の中では、延々と暗闇が続いていて決して晴れることはないのだから。
それでも、あの頃のAは玲王が特別だった。どんなに暗い闇の中でも彼だけが輝いて見えた。Aを導く光であった。それでも、彼に頼って生きていく道はAの矜持も心もへし折られて、溺れて呼吸もままならなくなり、やがて死んでゆく。
(______って、また玲王のことばっかり考えてる……)
Aは次第に憂鬱な気持ちが蓄積するのを覚えて、何もかも考えるのを辞めたくて思考を放棄するのだった。
*
369人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時