・ ページ12
「それにしても、何その姿。誰かから逃げてるの?」
「なんだ、愛の逃避行がお望みか?」
「真面目に心配してるんですけど……何か悪いことして逃げてきたのかと思った」
まるで、身分を隠している男のような風采だった。連絡もつかないし、久しぶりに会えたかと思えば顔を隠しているし、一体何のためにそんなことをしているのか気になるのも当然だ。
けれど、私はそんな疑問よりも何よりも先にミヒャエルに会えたことが嬉しくて、反射的に彼に飛び付いた。ミヒャエルはそれを難なく抱き止めて受け入れてくれる。
「心配させたか?」
「……うん」
「悪かったな」
どうやらそれは彼の本心のようらしい。普段の高慢な態度は一変して、私の頭を撫でるミヒャエルの手つきはあまりに優しかった。
私は単純だ。それだけで、この何日もの間放置されていたという怒りがスーッと薄れていった。そんなことをされたら、どんな嘘だって許してしまいそうになる。
「私と会わない間、何してたの?」
「知りたいか?」
「うん、ダメ?」
「お前の覚悟が出来てるなら」
ミヒャエルは言うつもりは毛頭ないのか、私が縦に首を振れないように意味を含ませたような言い回しをしてくる。私はそれを聞く勇気もなくて、結局何も言えずに閉口した。
待ち合わせをするだなんてカップルみたいだ、なんて一瞬でも浮かれていた私の気持ちは僅かに沈み込もうとしていた。だが、何度も夢想してきたミヒャエルとのデートという事実が、私の心の安寧を取り戻してくれる。
ミヒャエルに何人女の人がいようと、今だけは誰よりも私が彼の近くにいて、今だけは彼女と同じ立ち位置にいるのは自分なのだ。
「やっぱり、いい。聞かない」
「どうした、拗ねてるのか?」
「全然拗ねてないし」
分かっているならもっと会いにきてくれてもいいのに、と心の中では文句を並べながらミヒャエルに惑わされないように、私はその手を握り締めた。
「今日はデートでしょ」
「ああ、エスコートしてくれるんだろ?」
ミヒャエルに手を握り返されて、胸が動悸を打った。どうしようもなく恥ずかしくて、身体を繋げるよりも何よりも心の奥底に熱が灯る。
私は行き先を伝えず、ミヒャエルの腕をひいた。バスに乗って電車に乗って、移動中もミヒャエルの元カノの話をしたり、私の元カレの話をして盛り上がるも、リアルの話を一切しない私たちの関係が恋人以上になれないことを知らしめる。
498人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ブルーロック」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉子ぷりん - 見てて「こういうのもいいな」と新しい扉がひらいた気がします!(?)完結おつかれさまです!これからもおうえんしてます! (2023年4月3日 22時) (レス) @page23 id: 07e67c9327 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - ひてゃんさん» はじめまして、コメントありがとうございます!また、このお話を最後までお読みくださりありがとうございました!ひてゃんさんに、そのように言って頂けてとても嬉しいです🍀またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いします🙇♂️ (2023年3月5日 0時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
ひてゃん(プロフ) - とてもおもしろかったです!!完結お疲れ様でした👏🏻❤️🔥 (2023年3月4日 12時) (レス) @page23 id: beb1a37d1b (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 悠さん» 悠さん、改めまして最後までお読みくださりありがとうございました!また、再びコメント頂けて嬉しいです🥰彼に人生狂わされたくて思いついた話なので、そのお言葉とっても胸に響きます😊今後ともご縁がありましたらよろしくお願いします🙏 (2023年3月4日 7時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 自分はウェブで見てるのでフォローとかができないんですけどツイッターも見てます! 改めてお疲れ様でした! (2023年3月3日 23時) (レス) @page23 id: 1f3484379a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黄泉 | 作成日時:2023年2月11日 16時