十頁〜これは果たして恋なのか3〜 ページ15
「あのさ、雪城。南条のことあんま悪く思わないでくれないか?」
「へ?」
西川は存外(ぞんがい)、神妙(しんみょう)な顔持ちで言うものだから、つい変な声がでてしまった。
けれども西川はそんな事お構い無し。
俺としてそれは良いのか、悪いのか。遠慮(えんりょ)なく言葉を紡(つむ)がれていく。
「口ではあんな事ばっか言ってるけど、あいつ」
彼は南条にバレない為(ため)か、周囲を警戒(けいかい)したのち、こっそりと俺に耳打ちをした。
この時の俺の頭には何もなく、ただ彼に流される形で耳を寄せていた。
「雪城に“憧(あこが)れてた”から、雪城の結果が悔(くや)しいんだと思う」
西川は人差し指を己の唇(くちびる)に当て、「しぃー」っと至極(しごく)満足そうに笑った。
「西川ー、何やってんだ。置いてくぞー」
「はいはい。今、行く。じゃあ、俺行くね」
「あ、ああ」
端(はし)の折れた教科書をブンブンと振りかざす南条に答えるよう、西川は彼のもとへむかう。
その様子を、俺はただ呆然(ぼうぜん)と見ていた。
なんだ、いまの。
『西川はクスリと微笑(ほほえ)んだ。』文章にすれば、たったこれだけのこと。
しかし今見せつけられたのは、精密(せいみつ)に作り込まれた美術作品のように説明の仕様もない。見たものすべてを引き込むような、そんな笑み。
目立たないタイプだと思っていたが、こんな一面を持っているなんて。意外を通り越(こ)して驚愕(きょうがく)だ。
「はあぁー」
もう、なんなんだよあの二人。
なんか、ほんと、もう。ドッと疲(つか)れた。
「お疲れのようだね。Aくん?」
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作者名:フロース | 作成日時:2019年3月4日 19時