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「…一体何が?」
そう尋ねると、彼は気まずそうに頬を掻きながら口を開いた。
カンタ「あー…数週間前から親父が危篤状態なんだ。だから嫁の顔を見せたいんだって母ちゃんは躍起になってる。」
って言っても俺まだ17だぜ、と彼は苦笑いした。
「お父様は何してらっしゃるの?」
カンタ「船乗り。久しぶりに知らせが来たと思ったら、ボロボロになって帰ってきやがった。」
船乗り…。
その時、私は過去に女将さんと交わした会話を思い出した。
女将「昔船乗りの男がその布を持ってきたのさ。東の果てで太平洋の色そっくりな布を買ってきたから、それで恋人のワンピースを作って欲しいって。」
("素敵ですね。")
女将「ははは、アンタもそういうのに憧れる年頃なんだね。」
("まぁ、年相応に。")
(じゃあ、あの時の布は……__)
そうか…あの時の幸せそうな何かを懐かしむような顔。
それは世界でたった一人の愛する人に向けたものだったんだ。
「女将さんは旦那さんのことをとても大切に思っているのね。」
カンタ「さぁ、どうだかな。」
また苦笑いしてカンタさんはそう言う。
不意に視線があった。
彼は恥ずかしそうに目をそらすと、「それとさ…」と話を切り出した。
カンタ「どうせ母ちゃんから余計なこと言われたんだろ。」
「嫁いでくれって話ですか?」
カンタ「とっ、嫁い…………そうだよ。」
どうやらそれを明言するのはプライドが許さないらしい。それとかあれと誤魔化しつつ、彼は言葉を続けた。
カンタ「俺はそれをお前に押し付けたり、同情を買ったりするつもりはない。」
「…。」
カンタ「だから、無理して母ちゃんの言ってることに合わせる必要はねぇ。嫌だったらはっきり断ってくれ。」
「ありがとうございます。」
カンタ「今日はもう帰れよ。母ちゃんがあんなのじゃどうせ仕事にならない。」
「そうですね。」
それじゃあお言葉に甘えて、と立ち上がる。ベンチから離れようとすると、不意に腕を掴まれた。
カンタ「……もし嫌じゃなかったら。」
「…ん?」
カンタ「俺とのことを考えてやっても良いって言うんだったら…____」
「…。」
カンタ「……いや、駄目だ。この話はまた今度にしよう。」
悪かったな、面倒ごとに巻き込んじまって、とカンタさんは謝った。
聞きそびれた言葉の続きが気になって、いつものように悪態をつく余裕など無かった。
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金糖の少女 - 恋愛感情で動きを変えないという解釈…!!わかります!!自分も同じ解釈なんですけど恋愛小説ともなると難しいのでどうしても解釈不一致な作品ばかりになってしまうんですよね…(急募 語彙力) (12月15日 16時) (レス) @page46 id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - ひぃさん» コメントありがとうございます。シリアスなシーンが多い彼なので、創作の中だけでもほっと一息つける瞬間があって欲しいなと思い書きました(^^) お返事遅れてしまいすみません。 (2022年7月8日 0時) (レス) @page49 id: a48c4b505b (このIDを非表示/違反報告)
ひぃ(プロフ) - めっちゃ面白かったです!読み終わったあと、心があったかくなった感じがしました笑 (2021年5月27日 9時) (レス) id: 21a845e247 (このIDを非表示/違反報告)
かにかま(プロフ) - 凛太さん» コメントありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです(^^) (2020年11月11日 10時) (レス) id: c18fa87c81 (このIDを非表示/違反報告)
凛太 - めちゃ読みやすかったし、面白かったです!!! (2020年11月11日 6時) (レス) id: caca9cc888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かにかま | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/0660ea0a061/
作成日時:2020年4月12日 1時