もしも 中也side ページ8
いつもより早い時間に来て、Aを待っていた。姿が見えると、俺は名前を呼んだ。
「…おい、A、A」
『あれ?こんなところまで来たの?』
覚えた彼女の名前を何回も呼ぶと、嬉しそうに笑って腰を下ろした。俺もその隣まで行き、砂浜に体を半分ほど乗り上げる。
すると、彼女が俺の下半身の部分を撫でた。人間とは違う、鱗のついた魚のような下半身。
「(Aの足は、どうなってんだ…?)」
気になった俺は、彼女の着ている服を少し捲ってみた。
『えっ、あ、中也?どうしたの?』
白い肌の足が2本あって、触ってみるとスベスベだった。靴に覆われていた部分には、5本の指。
…俺とは違う、人間の足。
暫くすると、彼女は抱えて来た分厚い本を膝に乗せ、ページを開いた。
『中也、ここ読める?』
文字がある部分を指して、何か言っている。読んでくれと言っているのかもしれない。
「…人魚の一族は、千年以上の歴史がある」
書いてあることは、俺達人魚の基本的なことばかりだった。
仲間から聞いたことがある内容ばかりなので、別に難しいことは何も書いていない。
『やっぱり読めるんだね、私は分からないや』
「俺が読んでも、手前には伝わっちゃいねェんだろうなァ…」
『また喋った。何て言ってるんだろう…』
Aは何か呟いたあと、膝を抱えて顔をうずめてしまった。
眠いのか…いや、悲しんでンのか…?
取り敢えず、肩を掴んで軽く揺すってみる。すると、少しだけ顔を上げたAは、俺の目を見てまた何か呟く。
『…もし私が人魚だったら、ちゃんとお話できるのかな』
Aが何を言っているのか、俺には全然分からない。
…俺は、こいつの名前を認識できただけで、彼女のことを何でも知っているような気がしていた。だが思えば、Aのことを分かったつもりでいただけで、本当は全然分かりあえてないんじゃないか。
それは何故か。人魚と人間だから。種族が違うから。
普段の生活、言語、食い物、海と陸、文化に体の作りまで…
人間との違いを自覚すればする程、俺はAとの距離が離れていく様な錯覚に囚われた。
「…もし俺が人間だったら、ちゃんと話せるのか…?」
呟いても、首を傾げて悲しく笑うA。
「俺は、手前が好きだぜ。A」
ほら、この言葉も届かねェ。
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ヨモギ雲(プロフ) - チョコさん» こんにちは、コメントありがとうございます!4期見ています!出番が少ないながらも、相変わらず中也さんかっこいいですね…!✨ (2023年3月30日 23時) (レス) id: 8cd691db0d (このIDを非表示/違反報告)
チョコ - この話し面白くて見てます!そういえば、文スト4期始まっていますよ!! (2023年3月21日 13時) (レス) @page25 id: d38db6c248 (このIDを非表示/違反報告)
ユエ - こちらこそ返事ありがとうございます。作者様のペースで大丈夫です。今後も期待しています! (2021年6月29日 18時) (レス) id: 007fbd0124 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ雲(プロフ) - ユエさん» コメントありがとうございます!ダラダラ更新で本当に申し訳ないです(汗)頑張ります! 7月からでしたっけ…?一期がまた見られるらしいですね、楽しみです! (2021年6月29日 0時) (レス) id: 4c88579f44 (このIDを非表示/違反報告)
ユエ - いつも楽しませてもらってます。そういえば文ストの再放送がやるみたいですよ。 (2021年6月28日 7時) (レス) id: 007fbd0124 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨモギ雲 | 作成日時:2021年1月22日 13時