白い記憶 ページ11
「まだ、ちょっと熱いな、苦しない？」
「ぅん」
「そら良かったわ、なぁ、ほんのちょっとだけ、向こう行ってても平気か？」
「…、だいじょぅぶ…」
「ホンマごめんな、すぐ、すぐ戻ってくるから、な、ほんのちょっとだけ、待っとって」
部屋から出てきた横山くんに、疑問をぶつけた。
「なあ、横山くん、アイツ、何があったん」
「それは、」
「それは、何？」
「言えへん」
「はぁ？なんでや、」
「忠義が、アイツが、あんまり言わんとって、って」
「横山くんは、何で忠義って名前知ってるん？」
マルが、俺も思った事を聞いてくれた。
横山くんは、少し考え込んでから言葉を続けた。
「忠義には、俺が言った事、言わんとって。
俺、この第八管轄地区の孤児園に小さい頃預けられててん、ほんで、俺が五、六歳の時に来たのが忠義。その頃から忠義って呼ばれてた。あそこの園、他の管轄地区からも結構子供が集まって来て、あんまり俺みたいに関西弁使う奴がおれへんかったから、あんまり小さい頃で覚えとらんかも知れんけど、どっかで親の使うてた言葉、覚えてたんやろな、俺にだけ懐いてきて、俺もいっぱい可愛がってた。
せやけど、忠義が、六歳になる時、やっぱり、いくら可愛がっても、孤児園やったからさぁ、里親が引き取りに来るわけ。小さい頃から、顔も整ってたし、どっちかと言えば大人しかったから、すぐにいなくなってまうやろなぁ、と思ってたら、案の定そうやった。
夜、忠義の髪乾かしてる時、急に泣き出して、どないしたんって聞いたら、今度引き取られるって。俺なんか、なかなか引き取られないでずっとおったから、何も言えんかった。その一ヶ月あとに、裕福そうな夫婦が来て、忠義の手引いて行った。俺、阿保やったから、これで忠義が、ええ暮らしができるな、とか思ってた。
また何ヵ月か経った時、俺も引き取られて、それから色々あって、ここに来た。
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作者名：柳 | 作成日時：2021年3月2日 17時
