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「……
神威さんは特大の溜息を一つ置土産に、体のサイズを元に戻すとテレビの前に腰を下ろした。
胡座をかき、頬杖をつく後ろ姿は拗ねている子供のよう。
どんな顔をしているのか覗き見たい衝動を堪え、膝に残る重さと温もりをそっと撫でながら、猫背気味の背中を見つめる。でもよかった、神楽ちゃんたちが帰ってきてくれて。あのままじゃなんて返したらいいのかわからなかったから。
賑やかな足音の方へ視線を移すと、銀さんが大江戸スーパーの袋からいちご牛乳を引っ張り出していた。パックの封を切りながら何か思い出したように「あ。」と声が漏らされた。
「今そこでよぉ、新八のねーちゃんと会ったんだが…あー。わかるか? すまいるの」
「お妙さんですか?」
「そーそー。そいつが若いうちからガキ育てんのには金が入り用だろうなんだのってお前を指名してたぜ。
よかったら一日だけでも一緒に〜ってよ」
「人手不足とも言ってたアル」
「…子供?」
お妙さんと子供。繋がりの見えない話に首を傾げる。
銀さんたちも適当に聞き流して詳しい事はわからないらしく、謎は深まっていく。銀さん曰く「うちには今はた迷惑な大食らいが二人もいるからな」…とのこと。
今更 神楽ちゃんと神威さんのことを言われるのはちょっと違う気がしながらも臨時のお仕事は寂しい懐事情にはありがたいお誘い。
「折角なので稼いできます!」
「その腕で行っても足引っ張るだけなんじゃないの」
息巻く私をばっさり切り落とした神威さんの一言。
確かに、片手だけでは満足に仕事はこなせないと思う。
…私と神威さんの間で流れる空気が居た堪れない。
「つーか、治ってんじゃね? それ」
しっかり固定されている包帯を、トイレットペーパーを巻き取るようにして剥ぎ取られていく。取り巻いていたものがなくなり、軽くなった腕を持ち上げてみる。
利き手と比べると筋肉が落ち、ほっそりしている。
「まだ痛むアルか?」
「ううん、そんなには…ちょっと痛いだけかな」
肝心の手首部分に触れるも然程痛みはなく、後ろ前へと動かしても問題はなさそう。これでみんなに助けてもらうことも減って迷惑をかけないで済む。少し気持ちがすっきりしてグー、パーと手を開き閉じしながら笑みを浮かべる。
そんな私を神威さんがジッ、と見ていたことを知ったのは後々になってからだった。目撃者の銀さんから「らしくない顔をしてた」と聞かされ、心情は謎に包まれているものの、元通りになった片腕を素直に喜ぶのはその場限りにすることにした。
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時