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「うちの団長様はおねんねか」
ノックも無しに開いたドア。
その向こう側から阿伏兎さんは顔を覗かせた。
どんより暗い苦労の色を滲ませた瞳がベッドへ向き、寝息をたてて眠る神威さんの姿を捉えてはくつくつと喉を鳴らす。…わ、笑った。てっきり神威さんの自分本意な一面に呆れて嫌味の一つや二つ落とすのかと思っていただけに、肩を震わせ笑う艦内イチの苦労人に目が点になる。
「金にも女の股にも興味の無かった兎がこうも手のひらを返すたァ、若人にゃ何が起こるかわかったもんじゃねェなァ。 嬢ちゃんもそう思うだろう?」
根っからの悪人ではないけれど、私たちの出会いは今後良い関係を築ける素敵な切っ掛けとなるものではなかった。
同意を求められても阿伏兎さんと私の微妙な関係性からどう返していいものかと考えあぐね、その場しのぎに曖昧な笑みを浮かべておく。
「…まァ、興味持つモンが一つ増えたとこで悪党は悪党。 悪い奴が改心することなんざ、滅多にねェ」
光を灯さない瞳に射抜かれ、まるで悪いことをして責め立てられているような錯覚に陥る。
「俺達ゃ、嬢ちゃんが想像してるよりもよっぽどの極悪人だ。殺し、盗みは日常茶飯事。そこいらで平凡に生きてる奴の人生を一瞬で踏みにじるなんてことも数え切れねェ程やってきた。
そのこと団長から聞いてるか?」
「海賊をやられているお話しは、前に少しだけ」
「そんな浅さじゃこれから先、団長の隣を。あまつさえ後ろをついていくことすら嫌気がさすだろうな」
「……」
「アンタが知る団長はただの一面に過ぎやしねェ。
転がる死体を足蹴りして滑稽だと嘲笑いもするだろうぜ。…で、今の話も踏まえて団長のことどう見る」
(どう…)
神威さん、というより夜兎族の血に従い生きてる人たちと私の見ている世界は全くの別物。そもそも育ってきた環境が違うのだからそこを言い出したら切りがない。
「…私、人が死ぬところをまだ見たことがなくて。
いくら頑張って想像しても、他人事のような感じがします」
たくさんの言葉が頭で絡まりながら、唇の結びを解いた。
「今お話していただいたのも同じ感覚で。
なので、すみません…ちゃんと自分の目で見るまでは神威さんを " どう見る " かはわかりません」
「───なら、見に行く?」
ベッドの軋む音に振り向けば、大きな手が頭に乗る。
「起きてたのか」
「お前が来た辺りからね」
神威さんは私を立ち上がらせると加減を知った手つきで歩けと促すように腰を叩き、目を伏せて笑った。
「A、 今からお前に新しい世界を見せてあげる」
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時