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すっかり落ちきった夕日。目を惹く髪色は辺りの薄暗さからくすみを帯び、カーテンがかかったように額を覆い隠している。外気に晒されて冷えた指先を磨り合わせあたたかい息を吹けば「寒いの?」なんて声をかけられた。
マントを脱ごうと合わさっていた体が離れていく。
その隙をついて色白い肌とサーモンピンク色の
「っ、なにして」
「…だ、大丈夫かな〜って」
「大丈夫ってなに。頭が?
人の心配するより自分の心配しておきなよ」
熱を測る動作に悪態をつきながらも重なる手。
自分より大きい手に覆われながら向けた手のひらを額に突き返されてしまった。 主語が抜け落ちた話に訂正を入れようとしてある日の出来事を思い出す。懐かしさから目を細める私の肩にマントをかけられた。
「…前にも、こんなことありましたね。
神威さんが私を布団につれていってくれてそれを私が熱があるんじゃって心配して」
「そんなこともあったっけ」
「思えばあの頃から神威さんに惹かれていたのかも。
だから、」
唇を噛むように引き締める。
「帰らないといけないのに、断っちゃいました」
震えまいと堪えた声はくぐもったものへと変わる。
気丈に振る舞うつもりだった。これ以上情けない姿を見せて幻滅されまいと思っていたのに、結局いつも神威さんを前にすると崩れ落ちてしまう。
「生まれてからずっと大切に育ててくれた両親や良くしてくれた人たちよりもこっちを選んでしまったこと、おかしいなってわかってるんです」
それでも神威さんと過ごすこれからの時間を取ってしまった。瞑っている目の縁から涙が止めどなく溢れていく。悩んで悩んで決めた答えをしゃくり上げながら紡ぐ。
「きっとどっちを選んでも後悔するなってこともわかってて」
「…」
「なら、勝手な理由をつけてしまおうかなって」
最後に会った父と母の顔が頭に浮かぶ。写真もない電話をする術もない。さようならの挨拶さえもなく娘の失踪に二人は心を痛めるだろう。決心したのに深く考えると罪悪感で胸が押しつぶされる。
「とってつけた理由で納得はできた?」
降ってきた声に、はじけるように顔を上げる。
神威さんを視界に捉えた途端 ひとりぼっちに感じていた世界が一瞬で広がっていく。
「はい、バッチリです」
「自信たっぷりだね。
ま、それでも足りなかったら俺が作ってあげる」
鼻をすすりながら笑う私に神威さんは最後に「泣き虫」と笑い返してくれた。
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時