兎少年と一週間(参)

二十二兎 ページ24

(side 神楽)

放浪していた神威(バカ兄貴)が戻ってきた。
───かと思えば、トイレ、風呂場、台所とあちこち覗いて回ってはドスンとソファーに座った。なにイライラしてるアルか、こいつ。

Aちゃんのケガが治るまでココにいると勝手に決めて、治ったら出てくはずがまだ居座っていて。銀ちゃんたちが出かけてる今のうちに追い出してしまおうか。
食べかけの煎餅をボリボリ噛み砕く。やってやるアル。こいつのせいでご飯のおかわりが二杯分減らされて迷惑をこうむっている。

「お前一人？」

残った煎餅を飲み込んだタイミングで探りを入れてきた。

「Aちゃんならいないアルよ。新八とお通ちゃんのライブにでぇとに行ってるアル」

「誰もあいつのことなんて訊いてないだろ」

「言ってるようなもんアル」

Aちゃんを探してたのバレてないと思ってるアルか。

プライドが高くて女々しい神威を相手にしていたら、Aちゃんも愛想を尽かしかねない。バカ兄貴が振られる分にはざまあみろと指差して笑ってやりたいところだが、Aちゃんが振らずに健気にこのバカを寂しそうに待っているのは、小さい頃の自分のようで見ていたくない。

「……デートだっけ？ それ、あいつから誘ったの」

ほら、やっぱり気になってるネ。

無視して手についた煎餅の醤油を舌先で舐め取れば、いい加減な態度が癪に触ったようでテーブルの上に足を乗せてきた。行儀が悪い。壊れたらどうするつもりアルか。後でAちゃんにチクってやる。

「心の狭い男は嫌われるアルよ」

「知ったふうな口を利くようになったね。
おこちゃまなお前に大人の世界はまだ早いよ」

「そうアルな。
でも、Aちゃんは子供じゃないアル」

神威のアホ毛がぴくりと揺れた。
同時に笑みも深まっていく。我が兄ながら分かりやすい。

「お前の悪い癖アル。隠し事する時はそうやってへらへら笑って誤魔化そうとしてすぐマミーに見抜かれて」

「いつの話を、」

「今も」

昔 まだ一緒にマミーの隣りに居たあの頃の神威が。私の手を引いて歩いてくれていたお兄ちゃんが、薄っすらと映る。

「…少しは変わったと思ったアルが今も昔も変りないアルな。神威、肝心なことは口にしないと伝わないこともあるネ」

「…お前に説教されなくてもわかってるよ」

そう言うと神威は玄関に向かって歩き出した。
憎まれ口を叩かれ拳を交える覚悟もしていたが思っていたより神威は丸くなっていたようだ。

「大事なモン、もう二度と置いていくなヨ。バカ兄貴」

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