兎少年と一週間(参)

二十兎 ページ21

真選組屯所を守るように建てられている大きな門の向こう側に、庭先で素振りをしている隊士の方が数名見えた。
…もしも強そうな人を見かけて飛びかかりでもしたら。
そんな不安が頭を過り、神威さんを見る。視線に気づくや涼し気な瞳が私を映した。言うなら今しかない。

「ケンカはしちゃダメですからね」

見つめながら言えば、神威さんは首を傾げて「それは相手次第かな」…そう言って笑った。
見るからに困り顔をしてしまっていたのか「殺しはしないよ。多分ね」と、あの神威さんが直ぐ様フォローを入れ直した。 神威さんなりに気にかけてくれているのかも。
慣れないことをしている様や、他の人と接する時と違い、雰囲気を和らげてくれていること。どれも少し意識するだけで胸の辺りがそわそわしてしまう。




───…

「カビ臭いアル。れでぃーを招待するならJOJO苑くらい上等な部屋用意するのが礼儀ってもんアル」

「チャイナテメェ、JOJO苑行ったことねェだろーが。
サンチュでもしゃぶってな」

「くっさ、近寄るんじゃねーヨ。鼻がまがりそうネ。
Aちゃん、私の鼻大丈夫？曲がってない？？橋本環●(はしかん)より可愛いアルか？？」

「どれどれ…うん、大丈夫。可愛い鼻のままだよ」

神威さんを気にかけつつ、屯所内にある一部の関係者しか立ち入れない特別な部屋へと案内された私たちは、あまりの青臭さに鼻をつまんでいる。あ、あそこの壁の隙間からキノコ生えてる。
人とすれ違うのもやっとの狭い通路を通り過ぎた先に何があるのか、未だ教えてもらっていない。着けばわかるのかな。


「エントリーナンバー51番！ 行きます！」

「キミ、不合格。帰っていいよ」

……つ、着いたけど、わからなそうにないかも…。
開けた場所に着いた私たちの視界に映り込んだ光景は、可笑しなものだった。

「話には聞いてたけど酷すぎじゃね。
困るよォ総一郎くん。うちには嫁入り前の娘が二人いるんだよ。目が腐ったらどうする気？」

「コスプレ披露大会っていうより疲労大会ネ。
見てるこっちが疲れるアル」

事前に話を聞いていた銀さんたちでさえ、苦言を零す惨状。
隊士と思われる人たちが鉄格子の前に集まり、異なる髪色の鬘を被り体格に合わない服装を身にまとっている。
動く度に衣がビチビチと引き裂かれ、見るに耐えない。

「…ん？ そっちの子…」

鉄格子越しに対面した男の人がこちらを向いた。
周りに他の人がいる中 私だけを視線で射抜き、眼球がギョロリと動かした。

「A、A？ ホンモノ？」

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