兎少年と一週間(参)

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私にお姫様抱っこできるくらいの力があれば、丁度いい位置に寝かし付けることもできるのに。こう、ムキッ！とマッチョになりたい。筋トレでも始めてみようかな。いやでも、無理は禁物。人間諦めが肝心だと偉い人が言っていたような気がする。

早々に一人でどうにかすることは諦めて、誰かが起きてくれるのを待つことにした。できれば、喧嘩になりそうな神楽ちゃんよりも、もう一つのソファーで寝ている銀さんがトイレか何かで起きてくれることが一番望ましい。
…あ、銀さん、お腹出してくしゃみしてる。
タオルもかけずに、無防備に寝ている二人を見ていると風邪をひかないか心配になってきた。


「ん…」

寝心地がよくないのか、神威さんはうめき声を上げると、もぞもぞと落ち着きなく体を動かした。…起きそう？ 小さな声で呼び掛けてみると、神威さんは小動物みたいに体と体を擦り寄せ、私の首元に頬をくっつけて動きを止めた。…神威さんのほっぺ、柔らかい。

「…A」

不意に名前を呼ばれて喉の奥がきゅっと閉まる。
その後に寝息が続き、寝惚けていたのだと知る。…夢の中に私が出てきているのかな。そうなら、ちょっと嬉しい。無意識に人から名前を呼ばれるなんてこと初めてでドキドキがおさまらない。

ああ、いつからこんなにも神威さんのことを特別に想い始めてしまったんだろう。

自分の重い息づかいを聞きながら、ゆっくり、ゆっくり…神威さんの背中に両手を伸ばした。
寝ている相手にこんな事をしてこれが銀さんの言うアピールのうちに入るのかなんてわからない。でも、起きている時にはできそうにないから、と自分自身に言い訳をする。

寒くもないのに震える唇をこじ開け、縋るように抱きついた。緊張で心臓がぐしゃぐしゃになってしまいそう。


「…好きです……」

色々考えた末に出てきたのは、ありふれた言葉。
けど、その一言を言うだけで心臓が破裂しそうだった。
あまりの心音の騒がしさに神威さんが起きてしまうのではと危惧して、そー…と体を離す。私以外には届いていない言葉でも声に乗せられた事実が嬉しくて頬がほころんだ。

…も、もう一回だけギュってしても起きないかな。
心音が少し落ち着いた頃 抱き締めた時の感触が忘れられず、懲りずに手を伸ばす。しかし、その手は目の前の相手によって防がれてしまった。

「いつから夜這いをかけるはしたない女になったんだい」

「え、…！？ っいつから起きて…」

「最初から寝てないけど」

最初から、寝てない。
頭の中で言葉を復唱して、漸く事態を飲み込んだ。

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