十六兎 ページ1
「寝るなら布団」
淡々としながらも呆れた感情を含ませた短い注意。
目を閉じたままでもわかる。いつもより少し低めだけど、神威さんの声だ。どうやら私のだらしなさにお兄ちゃんっぷりを発揮してしまったらしい。
「坂田さんたちより先に寝るのはちょっと…」
「今寝かけてた奴が何言ってんだ。
上に布団敷いてあっから寝るならそこにしときなさい」
どこからともなく取り出されたナイトキャップを鼻先まで深々と被らされた。銀さんの匂いとほのかにいちご牛乳の香りが混じり合っている。
「わ〜、阿伏兎と同じ臭いがするや」
「パピーのニオイもするアル。
彼シャツ気取りアルか? そんなんだからモテないネ」
「おいこらガキ共!何ゴミ捨て場に投げてんだ!?
現役だからね、それ現役で銀さん使ってっからね!
定春くんもそれトイレシートじゃないから!やめてェェ!!」
愛用の品に難癖をつけられた銀さんは、ゴミ捨て場を前に膝をついた。 か、か、可哀想……!「甘い香りもして私は嫌いじゃないです!」そう、フォローを入れながら近寄るも行く手を阻むように神威さんが立ち塞がった。
「お侍さんにかまけてる暇あるの?」
「! お、おお下ろしっ、もう寝ませんから…!」
「はいはい」
私を小脇に抱えながら階段を上っていく神威さんを誰も止めようとはせず、辿り着いた玄関先で乱暴に靴を脱がされ、あれよあれよと準備されていた布団に寝かし付けられてしまった。
体を包み込む布団の柔らかさに一瞬で寝てしまいそうになるも隣に並んだ気配と温もりが落ちかけていた意識を現実へと引き戻す。
お世辞でも広いとは言い難いシングルの敷布団。
そこからはみ出ないように身体を寄せてくる神威さんは、安眠ポジションを決めたようで既に目を瞑り規則正しく胸を上下させている。
夜通し探し歩いてくれた疲れからか、軽く揺さぶり、押してもみても起きる気配は見られない。
…ぼふん、と枕に頭をつけて羨ましくなるくらい長いまつ毛を横から眺める。ふと、神威さんの寝顔をちゃんと見たのは久し振りで私の家にいた頃を思い出した。
「──神威さん。私 本当は…」
無防備な寝姿を前に口が動いていた。
"貴方のひとつひとつの行動に自惚れてみたい。"
複雑な環境と関係から導き出した気持ちを寝ている今なら…そんな単純な思考が頭を占めるも、両親や職場の事が頭をチラつき、大事な部分を声にのせる事は叶わなかった。
「…おやすみなさい」
帰りたいのに、帰りたくない。
矛盾した心を押し殺すように神威さんの肩へ額を押し付けて、その日は眠りについた。
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時