雑音 ページ11
一人暮らしのマンションは、
ファミリー向けの物件で
ゆったり作られた２ＬＤＫと恵まれた空間。
一室は囲碁のために集中する部屋にして
例え両親でも入らせないと決めている。
私が、私としてだけ存在するための場所。
「ここ一番」の前には、籠って己と向き合い
迷いを失くし、純度を上げるための部屋。
目を閉じ、雑音を断ち、心の内側に下りる。
−ちょっと待って、A−
−連絡先くらい教えてくれ−
慌てたように見えた表情が浮かぶ。
私が向きを変えると同時に伸びて来た手、
触れることはなかった。
−必要ないと思うの−
私は、正しかった。
あの人と一緒にいる翔くんは欲しくない。
選ばれなかったのなら、もういらない。
二十歳の頃、ぼんやりとしていた気持ちも
今ならはっきりと分かる。
私だって特別でいたい。
比べられるのは、嫌。
私だけって思って欲しい。
我儘だとも言えるけど、
叶わないなら彼女ではないと思うから。
翔くんはね、叶えてくれなかったの。
だから連絡先なんて教えないわ。
不安や孤独の種を自分で蒔く様なものだし
無駄な期待をして心を乱したくないから。
ホテルでの偶然から何日かして。
トーナメント戦エントリー手続きのために
意外と都心部にある連盟の会館に出向いた。
中で偶然会った海堂さんと会館を出て
珍しく徒歩の彼と並んで歩き、
駅前でお互いの健闘を祈って握手をした。
「じゃあ、本戦で会おう」
「うーん、そこまではどうかな」
手を振って改札に向かおうとした時。
スーツにトレンチコート、風に髪が乱れて、
なのに、私を見て微笑んでいる。
「あれ？A？またも偶然だね」
足元を落ち葉が音を立てて舞い、
夕暮れの大通りを車のライトが流れる。
退社時刻と重なっていたことに気付き、
人の波に逆らって来る彼をじっと見る。
「何か言ってよ、知らん顔する気？」
こんな正面から来られたんじゃ無理だって
分かってて、あなた言ってるのよね？
落ち葉と同じように音を立てて心が動く。
「そんな険しい顔する？傷つくな」
傷つく？誰が？冗談でしょ。
「こんな顔でごめんなさい。
彼女の綺麗な顔と比べないでもらえる？」
翔くんが思いっきり嫌な顔をした。
その横を通り過ぎようと早足になる。
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おはな(プロフ) - mayuさん» mayuさん、楽しみと言って頂けることに安堵しました。そうですよね、素っ気なく離れて行った彼、また近づいてきた彼の真意を書かなくては。時間がかかってしまいそうですけど、またmayuさんに来て頂けるようがんばりますね。 (2021年2月2日 20時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - さる子さん» さる子さん、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいです。テンポよく更新できていた頃の感覚がなくて、愚痴の様なコメントを残してしまいました。彼の真意に辿りつくまで、しっかり書いていきますね。ありがとうございました。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、少しペースは落ちているところ、コメントを頂きありがとうございます。彼の行動の一つ一つに意味があり狙いがあり、気持ちがあるのはもちろんです。それを何とかお話に乗せられるよう頑張りますね。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - おはなさんの書くお話、言葉も、繊細な心の動きも丁寧に書かれていて、面白いです。翔くんは一体どうしたいのか続きが楽しみです！ (2021年1月31日 9時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
さる子(プロフ) - ぜんぜん！がっかりなんて！楽しみにお待ちしておりました。おはなさんのペースで更新してけだされば。彼の真意を想像しながらまっていますので。更新に感謝です。 (2021年1月31日 2時) (レス) id: eb4a575f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2020年12月25日 23時
