怯む ページ20
私の表情はきっと冷たくて
隙なんてなかったと思うのに。
「失礼するよ」
匡臣は当然のように隣のソファに腰掛けて
しかもぎぎっと音をさせて
私の方に斜めに向きを変えた。
鼓動が速くなる。
神経が彼に向かって集中していく。
指先から体温が失われていくのを感じる。
喉が、乾く。そんな馬鹿な。
水の入ったグラスに伸ばした手は
震えてしまっている。
それでも怯む様子を見せたくなくて
大きな窓から覗く細い月を見上げた。
「俺さ」
姿勢を戻さない私に匡臣が静かに話し出す。
「信じてもらえないんだろうけど、
Aが一番だって今もそう思ってるんだ」
「それは、嘘だわ」
また遮った私に苦く笑ってから、
小さく首を振って匡臣は否定した。
「正直に言うけどさ。
“触れたくなる赤“も”香り立つ純潔”も
Aを想い浮かべて出した言葉だよ。
俺にとってのAはそう言う存在だ、
今の彼女とは全然違う。
手が届くのに捕まえられなくて
追いかけていないと置いて行かれる。
勝手だけど、あの頃の俺は力不足で
そんなAに疲れたんだろうな。
きっと今なら、そうはならない。
でも今の俺が選ぶ女はAじゃない」
何よ、それ。
結局は私を拒絶してるんじゃないの。
手の震えがひどくなった。水を飲む。
「今の彼女と結婚するんだ、秋に。
きっとすぐに子供ができてパパになってさ、
ふわふわと穏やかな毎日を過ごすんだよ。
俺はこの先いつだってすごいって言われて
素敵って褒められていい気になって
段々と馬鹿さ加減に磨きがかかるんだ。
笑っていいよ、これが俺の選んだ道だから。
Aには無理だろ、そんな馬鹿夫婦。
自分でも分かるんじゃないのか？」
あのねえ、馬鹿にされてるのは私でしょ？
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おはな(プロフ) - Virdさん» さすが、このお歳で課長になった彼ですから真意を出したり引っ込めたりと、手の内を明かしません。そんなところも好きです。恋に堕ちるだけでない大人の余裕を書きたくて、欲張っております。Virdさんにドキドキして頂けたなら、自信がつきます。次も頑張れそうです。 (2020年7月10日 20時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - mamoさん» 美貌の人気作家さんのお話は、突然〈R〉警告に遭って混乱してしまった苦い思い出があります。ここで何となくフォローしたりして、私の自己満足にお付き合い頂いております。振り返って頂き嬉しい限りです。どちらにも想いを込めた、大切な彼です。ありがとうございます (2020年7月10日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - mikkyさん» 課長のさりげないリード力に流されずについていきたい。そんな願望をお話の中で叶えております。mikkyさんにも響いていたら嬉しいです。始まりの予感の次のステージに立ったような回でした。次も是非、お越しくださいませ。 (2020年7月10日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ゆいさん» 妄想を爆発させたデートプランです。私なりに練りに練って、このようになっております。ゆいさんにも楽しんで頂けたら嬉しい。課長の言葉は、じーっくり吟味して書いております。 (2020年7月10日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - さる子さん» 嵐でなければできないこと、嵐ファンでなければできないこと、思う存分楽しみたい気持ちを押さえつつ、状況を見定めていかなければなりません。彼らの苦悩を思えば私の我慢なんて。せめて課長とのデートを一緒に満喫しましょう。コメントありがとうございました。 (2020年7月10日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2020年5月30日 22時
