【銀魂】闇に酔う悪魔

紳士 ページ20

「ほらよ」と缶を差し出され、何気なく受けとった。じんわりと暖かくなる手の中。男は、ベンチに座る私の隣に腰掛けた。



そうして無言で差し出された手に戸惑っていれば。






「ーー120円」

「・・何さ、金取るのかい」

「本当は130円な。10円まけてやってんだから
文句言うんじゃねーよ」


「ケチ臭い男だね」

「んだと！？」




まあ、いいけど。

懐から取り出した120円を、その大きな手に放る。
男が握った手の中で、小銭がふれあいチャリンと
鳴った。






「ーーで？何悩んでんの？」


「・・知らない男に相談話なんてしないよ」

「はぁっ！可愛げのねェ女だ。タダなんだぞ？
遠慮せず聞いてもらえばいいのによ」




一体何者だろうかこの男は。
いとも簡単に人の懐に上がりこんで。

いつのまにやら肩を並べて腰掛けてるときた。
図々しいねえ、まったく。









「ーーーまああんたの予想、・・男絡みってのは、
あながち間違っちゃいないかもね」




ほらな、と得意げに笑った男は、
紙パックのイチゴ牛乳をすすった。






「人生、諦めたら負けっていうぜ」

「そりゃ根性論さ。実際は、諦めが必要なことも
あるだろうに」


「いんや？諦めなきゃならねェことなんざ、
ねェだろ。ーー諦めたり、物事終わりにしたり、
そういうの、全部自分が決めることじゃんよ」





自分が諦めなければ終わらないのか。
・・何さ。それこそ、根性論ではないか。


手のひらの中で、コーヒーの缶が次第に
熱を失っていく。いとも簡単に消え去るそれが、
今はやけに寂しくて。







「足掻いてみるこたァ格好悪ィか？」




格好悪い？いや、そうじゃない。
そんな単純な話じゃない。

もっと巨体で黒いものが、私の中で絡まって、
足を引っ張る。逃げられなくなる。






「・・・生憎、私は生きてるだけで十分なんだ」


「そいつァ随分お手軽だな」





そうさ。私の生き方はお手軽なんだ。
何も考えない。何も望まない。

だから、生まれるしがらみも苦悩もない。



それで満足だ。ーーそのはず、だろう。






「あんたは損だね。見ず知らずの女が泣いてたら
足を止めずにはいられない性分だなんて」


「ま、俺って紳士だから」

「程遠いナリでよくいうよ」
「んだと」


「嘘さ」




ーーイイ男だ。

どこか、あのお兄さんを思わせる。
身なりではなくて、きっと雰囲気とかそういうの。

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