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スマートな仕草で立ち上がった薮は、余裕のある笑みを見せて一礼する。
「薮課長……?今夜は、八乙女さんと二人で食事のはずでしたが?」
中島と呼ばれた美青年は、険のある声で薮を睨みつけるが、薮はすっとぼけた顔で小首をかしげる。
「今夜は我が社の美人を中島様に紹介することになってたんですよ。
八乙女主任の発案で――いわゆるサプライズですよ」
「……そうなんですか?八乙女さん?」
「う、あ、あの、その、え、うん……」
すらりと長身の美青年に見下ろされた八乙女は、へどもどしながら、眼鏡越しに薮を見て、中島を見て、私となっちゃんを見て、また薮を見た。
薮課長は知らん顔をして、挙動不審の八乙女主任と苦虫を噛み潰したような中島に、私たちと同じテーブルに座るように勧め、強引に席を決めた。
八乙女と中島は、薮を挟んで座り、八乙女の正面に私、中島の正面になっちゃんとなった。
……なんだ、これは。
なっちゃんと私はあんぐりと口を開けていた。
八乙女はふるふると薄桃色の唇を震わせ、薮は素知らぬ顔を決め込み、中島は薮を睨み付けている。
こういう時の薮課長は実にソツがなくて、突っ込みどころがない。
どうやら、八乙女が薮に内緒で中島建設のお坊っちゃんを接待しようとしていて……それに気づいた薮が、私たちを連れて待ち伏せしていたらしいな、これは。
私となっちゃんは腐女子アンテナを立てて、無言の会話をする。
『どうすんよ、なっちゃん』
『どうって、薮課長に乗っかるしかないでしょ』
『薮の出方を見るしかないってことか』
『ですね……』
「中島様にはいつもお世話になっております」
にこり、と愛想よく薮が挨拶する。
「お礼と申し上げるのも語弊がございますが、今夜は弊社の綺麗所をご紹介させていただきます」
おい。こら。綺麗所って私らのことかよ?
絶対に、100%、まったく、綺麗なんてこと思ってないクセに、どの口が言うんだ、えっ、どの口が。
ウソつきはドロボウのはじまりだぞ、薮課長。
大声で叫んで、すまし顔の薮にグラスの一つも投げつけたい衝動にかられるが、なんせ人目がある。
私となっちゃんは、薮の作戦に乗っかるしかない。
なっちゃんはモナリザばりの、あいまいな微笑を浮かべ、私は「薮課長、褒めても何も出ませんよ」
と、ありきたりな牽制をするしかなかった。
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時