ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ38)

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ある意味少年は『出来すぎた少年』として周りから敬遠されていたのであった。そのにおいて、大抵の事はなんでも理解出来てしまう、言わば信頼に足りる天才少年を兄に持ったアーノルドは、恵まれた子供だった。

「……初めて、俺の命を任せてもいいと思えた人だった。俺の未来に何かしらの成長と変化を齎してくれると感じた人間だったんだ。……はじめて、俺を信頼させてくれる人だった」

　虚をつかれたように呆然と立ち尽くすアーノルドに、シモンは力無く笑って、それから、ベッドの傍に置いてあった茶色い革靴を履くと、アーノルドに自らの後に着いてくるように指し示して、部屋を出た。
　漆喰の壁が覆う孤児院を懐かしむように兄弟で回りながら、兄の方は続けて言った。

「本格的に、あの人を信用し始めたのは、“この眼”を使いこなせるようになってからだ」

「IPSAeyeってやつかい？」

「そう、シャールさんはコイツを未完成なまま俺に渡した。…正確には未完成と言うよりも、既に完成されたプログラムのロックを外さないまま、または、“外せないまま”渡したんだ。そこで、俺は、端末内に残された設計図を確認して、プログラムのロックを外し、そこから本来シャールさんが書き加えるハズだった追加プログラムを設定した。外したものがどういうものなのか、追加したのがなんのプログラムなのかはよく分からなかったが…この義眼の機能に直接関わるような事ではなかった気がする…」

「それが、アンタの、あの人物に対する信用にどう繋がるんだ」

昼の太陽が差し込む孤児院の教室に入ったすぐの扉の前で、弟の方は先程の部屋でのことと同じように、腕を組んで、首を傾けた。教室の窓の外で遊んでいる兄弟達を見詰めながら、兄の方は答えた。

「あの人、俺の頭を撫でないんだ」と。

「……俺を───今まで馬糞か虫けらの様に扱われてきた、こんな社会の歯車でしかない小さな餓鬼を、あの人は“対等に”扱ってくれたんだ。俺に、馬鹿だと悪態をつきながら、生きる道を指し示してくれて、畜生の飯のような味しか知らない俺に、チョコレートクッキーを差し出してくれた。しかも、こんなにも誰もが手にすることの出来ない世界を見ることが出来る“視界”を俺に与えてくれた。俺のことを信じて、任せてくれたんだと思ってる。

俺は、俺を信用してくれる相手を信じたい……それに…なんだか」

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