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「兄さん、俺にとってアンタは憧れだ」
そう言われたシモンは、ベッドの上に胡座をかいたまま、顰め面で後頭部を撫で回した。それは明らかな照れ隠しであったが、彼の頭の中に瞬時に思い付いたのは憧れに対する否定の意思だった。
「…止せよ、弟達の憧れに向いてる人間じゃないことぐらいは、俺が一番よくわかってる。こんな自立できない兄貴は宛にするな。そんなことより、こんなところに居ないで、同級生とでも遊んできたらどうだ」
「おいおい、こんな田舎町の昼真っから出掛けて、どこで遊べって言うのさ。それに、スクールの奴らは俺がいつまで経っても養子に貰われない孤児だからって小馬鹿にしてくるんだ。────まぁ、正確に言えば俺が養子縁組を拒否してるからなんだけどさ。あんな類人猿共を相手にしているよりも、孤児院に篭って兄弟の相手してた方が余っ程有意義だと思うね」
「なるほどな、お前ほんっとプライド高いもんな。道理でスクールの友達と遊んでるところを見たことがないわけだ。お前に好意的な女子生徒の誘いも全部突っぱねてるって話じゃないか…」と、シモンが言い詰めると、普段は微動だにしないアーノルドの白磁器のような白い顔に、僅かな皺が寄った。女の話を少しでも話題に出すと、このように不愉快極まりないといった表情を露わにして見せるのが彼という青年であるのだ。ダークブロンドの彼は、プラチナの瞳に落ちかかった癖のある髪を払うと、少々声を低くして行儀の悪い兄に訴え掛けた。
「俺によってくる女見てるとイライラするんだよ。分かるでしょ、あの耳にキンキンくる甲高い声、それに、まるで俺の恋人みたいにベタベタまとわりついて来るんだ。ああいう自分のことで頭いっぱいで、こっちのことなんかこれっぽっちも考えていない押し付け様は、母親を思い出す」そういうアーノルドに対し、シモンは分が悪そうに頭を竦めた。申し訳ないと思うも同時に、悪態が留まることを知らない弟の口を一思いに塞いでやりたくなった。アーノルドは続けて、
「あとね、俺はクラスの人間と楽しく遊ぶほど、もう餓鬼じゃないし、餓鬼で居られないんだ。アンタだってそうだろ、アンタが相手にしたがるのは何時だって大人じゃないか、それも飛びっきり変わり者のね。“シャーリー”だっけ？ 兄さんが追っかけ回してる人の名前って」
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作者名：ワッさん | 作者ホームページ：http://img.u.nosv.org/user/0301enmakun
作成日時：2021年4月10日 17時
