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 “わかったかい”一度隣室の暗闇の奥に消えて、再び戻ってきた恩人の手には、錠剤服用用の水の入った透明なガラス容器が握られていた。ベッドに腰を預ける少年は、それを受け取ると、水面に写る自分の黒い片目と目が合った。
「二つほど質問をしてもいいですか?」
「あぁ、できる範囲で答えてやろう」
 許可が降りると、少年は、水の中にいるもう一人の自分に問うように、黒髪の人物に疑問を差し向けた。「何故、僕のアンロックパスコードの“場所”が分かったんですか?」と。それに耳を傾けていた相手は、眉や瞳孔すら動かさずに、さも平然と応答した。
「パスコードに選ぶ体の部位は、家族や団体やらのグループ共有の意図がない限り、指紋の場合が多い。だが、指紋と言っても、何本指の指紋がパスコードになっているかは明確には分からない。統計からして一番多いのは右人差し指の一本による認証だ。君の個人情報がその身体コードで管理されているようにね」
「ではなぜ…」と、身を乗り出すと、急かすなよと、黒水晶の瞳が此方を睨んだ。
「……孤児院に居た子供たちに施されるものは、模範的な『一般』の場合が殆どさ。常に、親も子もいる『一般的な』子供の成長を意識してカリキュラムが構成されている。だからこそ、大量の戦争孤児を抱える多くの孤児院や戦争孤児保護機関では、身体コードでさえも手軽で、かつ一般的なものが好まれる傾向にあるのさ」
 暫く沈黙を落とすと、更にその経緯を話し始めた。
「君が元孤児であることは見た瞬間すぐにわかったよ。眼球や、顔色からして明らかに栄養の偏った食生活に、明らかな低体重。過去のトラウマから発症するような不眠症の所感も見られた。何よりも、ここで数日君を寝かしつけておいても、君が逃げ出してきたあそこの屋敷から探し人が来る素振りもない────基本的に、このご時世、世間体の維持のため引き取られた孤児というのは、家畜のような粗雑な扱い方をされるのが殆どだからな…。僕は君のような子供を幾人も見てきた。とことん愛情の欠如した生活を強いられている子供達をね…。────それと、君の現在の里親、あの男は麻薬売人の元締として裏社会では結構有名な人間でね、有名な人間の情報はデマも多いがその分手に入りやすい。それで、あの男が丁度二年前に戦争孤児養護施設から少年一人を引き取ったことを予め知っていたのが決め手だったな」







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設定タグ:SF小説 , ADAPTERシリーズ , バトル   
作品ジャンル:SF, オリジナル作品
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作者名:ワッさん | 作者ホームページ:http://img.u.nosv.org/user/0301enmakun  
作成日時:2021年4月10日 17時

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