・三十一 ページ32
見つめ合う
ただただ静かな空間で
何も話さず
優しく微笑んだあなたはスッと真剣な顔に戻って
その細長い指で
綺麗な手で私の手を包む
その手に自分の指も絡める
そしてそれがキュッと繋がれた時
それが合図
言葉もなしに重なる唇
今までで一番幸せなはずなのに
今までで一番切ない
始めは優しくて
時折角度を変えて降ってくる
そのキスに吐息を漏らすけれど
止まることを知らない
苦しくても求めてしまう自分がいて
少し華奢なその背中をギュッと手繰り寄せる
はだけてゆく着物は
今まで感じたことのない羞恥心を教えてくる
私は菫さんがいなくなってからずっと
毎晩、誰かの相手をしてきた
どんなに気持ち悪くても
嫌でも、
ここに来てしまったから
誰にも情はなくて
ただ苦しい夜を過ごしてきた
でも慣れているはずだった
それなのに大切な人と一夜を共にするってこんなに
緊張する事なんだって思った
初めて知った
慧 「はぁ、A、愛してる」
貴方 「私も、ｱｯ､」
来る波にここまでの快感を感じたことはないだろう
もう二度とあなたと会えない
それは私にとって苦しくて
生きていくのも嫌になるくらい嫌で
なんとなく菫さんの気持ちが分かってしまった
貴方 「苦しいなぁ、」
そう言ってあなたを見たら
あなたも寂しそうな目でこちらを見ていて
貴方 「初めて見た、こんな顔」
慧 「そりゃね、」
あなたの頬に触れるとポロッと私の頬に落ちてくる雫
貴方 「苦しいね、」
初めて私の前で涙を流したあなたは
ギュッと私に覆いかぶさるように抱きしめてくれて
その温もりが消えることはなかった
悲しいほど、私の中に残り続けて離れなかった
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作者名：いのみづちゃん
| 作成日時：2017年8月29日 10時
