No.54 ページ4
．
危ないと思って反射的に出た手は 健太の身体のすぐ横に付いた。
顔と顔がぶつかりそうなぐらい近くて、一気に体温が上がる。
『ごめんなさい、！』
急いで退こうと思ったのに手首は強く掴まれたままで、起き上がることを許してくれない。
半分パニックの私。
でも一呼吸置いて視線を前に向けて、驚いた。
私を見る健太の、いつもは真っ直ぐな瞳が揺れている。
まるで迷子の子どものような瞳で見つめられて、私の心がざわざわと波立つ。
『けん、た……？』
思わず名前を呼ぶ。
『わ、！』
すると健太はそのまま腕を引っ張って、私をベッドに転がして抱き寄せた。
アルコールと香水の混ざった香りが鼻をくすぐる。
いつも寝る時とは違って、少し息が苦しいぐらい腕に力がこもっていて 身動きが取れない。
「……Aは、壱馬の方がいい？」
『え？』
突然出てきた壱馬さんの名前。
「まあ、かっこいいもんね。
アイツからA助けたのもけんたじゃなくて壱馬だし」
自嘲するような呟きは、私に向けてなのか独り言なのか分からなくて。
黙ったままでいたら、健太が少しだけ身体を離した。
その視線が私の首元─ネックレスに落ちる。
「でもAはうちの子だよね？」
確認するような言い方。
ゆらゆら、ゆらゆらと、
頼りなく揺れている瞳から目が離せない。
しばらくして、私の背中にあった大きな手が後頭部に回った。
私の顔を胸に押し付けて 抱え込むように抱きしめる。
「……どこにも行かないで」
私の耳に届く少し震えた声。
知らない健太の姿に酷く動揺した私は、
その言葉を肯定も否定もできずに、ただ彼の腕の中にいることしかできなかった。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1030人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「THERAMPAGE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
熊猫(プロフ) - コトリさん» 返信が大変遅くなってしまい申し訳ありません🙇💦以前からコトリさんの作品を読ませていただいていたので、コメントいただけたことにビックリしながらもとても嬉しいです！読んでいただきありがとうございました🙏✨ (2022年9月6日 12時) (
レス) id: 909b68a48b (このIDを非表示/違反報告)
コトリ(プロフ) - はじめまして。完結からだいぶ経ちますが作品読ませていただきました！ほんっとうにおもしろかったです…。宛書きですか？というくらいリアルで、脳内でドラマ化…。健太さんのクールな部分と柔らかい部分も読みごたえ抜群でした。素敵な作品ありがとうございます。 (2022年5月6日 11時) (レス) id: 16f707b051 (このIDを非表示/違反報告)
熊猫(プロフ) - ひなさん» コメントありがとうございます😭🙏✨色々伏線を張ってはいたものの本心まではたどり着けていなかったので、この番外編でお話できて良かったです😂最後まで読んでいただきありがとうございました🙇♀️ (2021年12月10日 21時) (レス) id: 0ec074764d (このIDを非表示/違反報告)
熊猫(プロフ) - Kazumiさん» コメントありがとうございます🙏✨自分の書いたお話でそこまで楽しんでいただけたかと思うと飛び上がるほど嬉しいです😭本当にありがとうございました！ (2021年12月10日 21時) (レス) id: 0ec074764d (このIDを非表示/違反報告)
熊猫(プロフ) - 余白のむらさん» 本当ですね😢余白のむらさんのコメントを拝見して、壱馬さんに別の素敵な相手が見つかるスピンオフがあっても良いかも…！と思いました☺️最後まで読んでいただき本当にありがとうございました！ (2021年12月10日 21時) (レス) id: 0ec074764d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：熊猫 | 作成日時：2021年9月9日 17時
