姉愛［09］｡産声響鳴｡ ページ9
冬美side
｢うぁ…あぁあっ!!｣
｢頑張ってお母さん……！｣
｢もう少しです轟さん！｣
爪が食い込んでしまうんじゃないかって心配になるくらいシーツを強く握り締めるお母さん。私には到底図り知りえない激痛がお母さんを蝕み襲う。
赤ちゃんの小さな赤い頭が、少し覗いた。
｢Aちゃ………Aちゃんはっ？｣
え？ A？
｢はっ…ぁ、Aちゃんは居ないのっ？｣
苦しそうな顔で縋るように繰り返す。
よれよれの瞳でAの存在を求め続けるお母さんに、私は耐え切れず声をかけた。
｢Aに会いたいの？
分かったすぐ呼ぶから！｣
｢い"ぁっAちゃん……｣
急いで携帯を耳に付けた。
電話のコール音が鼓膜近くで鳴って。
それから。
『もしもし』
凛とした、芯のあるAの声が触れた。
『A!! 今すぐ病院来れる！？』
叫ぶように言うと、ほんの一瞬黙ったA。
でも1秒後には｢今からすぐ向かう｣って。
｢っうん…！ お願い!!!｣
妹の真摯な声色に元気づけられる。
お姉ちゃんなのに、私って本当弱い…。
｢あああぁ"っ……!!｣
｢しっかり轟さん！｣
徒ならぬお母さんの呻き声が背中を刺して、瞬間流れた冷や汗を拭い慌てて駆け寄りに行く。
唇を開きかけたその時。
｢母さん！｣
Aが病室へ飛び込んで来た。
って来るの速過ぎない！？
さっきの電話から3分も経ってないのに！
｢母さん大丈夫。私はここにいるよ｣
｢Aちゃん…来てくれたっぅ！｣
震えるお母さんの白い手を、優しく包み込むA。無表情だけど、いつもより晴れやかな顔でお母さんを見つめている。
私には見せないような暖かい妹の姿を。
そんな背中を、私は唯々茫然と見つめた。
｢…………｣
A…お母さんの前だと
そんなに柔らかい表情するんだ。
｢うっああぁ!!｣
｢もう出ます！ タオル出して！｣
｢はい………！｣
看護師さん2人のそんな掛け合い。
───の直後。
｢おぎゃぁぁー!!!｣
赤ん坊が大きな産声をあげた。
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
