姉さん、愛してる。Ⅰ (ページ27)

今日:11 hit、昨日:46 hit、合計:2,268,763 hit

姉愛［27］｡思考世界｡ページ27

　
　
　
｢勝己は何でも卒無く熟せる天才肌ってやつなの｣

そんな初歩的な事当然知ってる。

伊達に1年間勝己と付き合ってないから。彼が優れた能力を、幾つも備えていることは知り合って4日で分かった事実だ。

｢あの子の身近には、あの子の上を行く人が居ないのよ」

黙って相槌を打つ。

｢だから自分が凄いって特別だって思い上がる。横暴になっちまうし態度もデカくなっちまう｣

それを制御してやれない母親の自分が情けない。と肩を竦める光己さん。

母さんの力無い笑顔が過ぎった。

｢爆破なんて派手な個性が出てからは特に酷くなってね｣

でも。と続けて。

睡蓮花みたいな笑みで見つめられる。

｢Aちゃんだけが、勝己の中で自分より上って唯一認められてる人なのよ｣

屈服なんて含みもせずはにかむ彼女。

何がそんなに嬉しいのだろうか。
要するに私が勝己に懐かれていると？

｢自分が1番って言う勝己の狭い思考世界でAちゃんは一つの光なの。何よりも偉大で強くて凛々しくて｣

｢よく分からないんだけど｣

｢まぁつまり。この先もずっと｣

子をもつ母親だと感じさせられる目で。

｢“勝己”を見続けてあげて欲しいんだ｣

そう言った。

｢私も勝己もAちゃんのこと凄く大切で大好きだからさ。そんな悲しそうな顔して欲しくない｣

私の頭を撫でながら、優しく囁く。

｢それは皆同じだよ｣

母さん以外の所詮は他人に気安く触れられたくはない。いつもは体が拒絶反応を起こすのに。

この人は不思議と嫌ではない。

どこか母さんに似ているからなのか。

それとも私が個人として、
この人を好きだからなのか。
多分前者だと思うけれど。

｢そーだぜAさん！｣

｢勝己………｣

いつからそこに居たのか。

腑抜けの私は、すぐ左手で瞳を潤ませる勝己に今更気付いた。

椅子から離れ清潔な床に両膝を付ける。

途端、私には勿体ない温もりが触れた。

｢俺Aさんのそんな目嫌だ………っ！
いつもみたいなキラキラした目がいい!!｣

涙のせいで赤い瞳が橙っぽく色を変える。

｢Aさんを悲しませる奴は俺が倒すから！｣

啜り泣きながら私の服を握り締める勝己。

ギュウっとしわが集まった。

｢ありがとう勝己｣

｢………うんっ！｣

瞬間。心に絡み付いていた冷たい鎖が1つ。

ガシャンっと。
解けた気がした。