姉愛［12］｡必至必死｡ ページ12
no-side
轟家道場。
見下ろす炎司。見上げるA。
毎度馴染みの光景ではあるが、今日はいつにも増して両者が鋭い視線を伸ばしていた。
炎司がグっと顔を歪める。
｢遅いぞA｣
｢ぐ……っ！｣
腹を蹴り飛ばされ吹っ飛ぶA。
ドガっ!! 鈍く大きな音が弾けた。
背中を壁に強打したAは、
耐え切れず床に倒れ込んでしまう。
｢げほっげほ…っ｣
チっ。と舌打ちを落とし。
憎悪で炎司を睨み上げる。
｢まだそんな眼をするか。物分りの悪い奴め｣
｢………煩い｣
ヨロヨロと無理に立ち上がり、
床へ微量の血をぺっと吐き捨てる。
傷だらけの手の甲で口許を拭った。
｢一度でもいい。俺に攻撃を当てられるようになれ。熱と氷結、どちらも上手く使ってだ」
ピクリと眉を上げるA。
怪訝そうに奥歯を噛み合わせて。
｢厭だね。私は氷結しか使わない。
お前の汚い個性なんて誰が使うか｣
と、堂々悪態をついた。
｢いい加減にしろ｣
｢それは私の台詞だ｣
バキっ!!!
Aの頬に汚い朱が散った。
｢いい加減にしろと言っているだろう!!
お前のその両耳は飾りか何かなのか！？」
これまでに無い程額に青筋を浮かべ、
Aの頭を掴みあげる炎司。
圧迫と激しい痛みにAの体は悲鳴を上げた。
ミシミシと。端正な顔が酷く崩れていく。
｢離せっ……｣
｢離すと思うか｣
｢離せクソがっ！｣
小さく細い手で必死にもがく。
しかし、そんな非力では到底敵う筈もない。
｢口の悪い奴め。誰の為にコレを
しているかお前は分からないだろう｣
そんなもの分かりたくもない。
｢………っ｣
意識が飛びそうになった。
暗闇の渦に沈み、そうに。
｢ねーね？｣
そうになっただけで。
沈みはしなかった。
突如として反響したそのあどけない幼子の声そのに、Aはこれでもかと目を見開いた。駄目だ駄目だ。と。
驚きと動揺が全面に滲む。
｢しょ…う、と………｣
入口から少しだけ顔を覗かせ、兎のように怖気づいた瞳でAと炎司を見つめる焦凍。
その逸脱にAはふるふると震わせる。
｢お父さん？ ねーねになにしてるの？｣
黙って、焦凍を見下ろす炎司。
｢お父さん…？｣
｢焦凍。そうか。お前ももう3歳だな｣
言ってAの頭から手を離し床に叩き落とした。ドっと押し寄せる嫌な予感。
“もう3歳”
その言葉にAは過剰な反応を見せる。
｢焦凍………｣
絶望で汚された掌を。
大わらわに伸ばした。
｢逃げて…｣
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
