姉愛［289］｡西の意味｡ ページ39
｢三朽を殺したあと俺もすぐに舌を噛みちぎった｣
颯輔が何を言っているのか暫く受け止めることが出来なかった。けれどその真剣な眼差しと愁が詰め込まれた瞳を見ていたら、受け止めざるを得なくなってしまう。
壮絶な人生を三回も経験して、また、今。
今を颯輔は四度目として生きている。
｢…ありゃりゃ、泣かないでよA嬢｣
｢っ、だ……って｣
困ったようでどこか嬉しそうに微笑しながら私の目尻に溜まった涙を拭ってくれる。
優しい手つきが、また私の涙腺を壊す。
｢俺も辛いばっかりじゃなかったんだよ？ 確かに大切な人をいっぱい失って散々泣いたし、ボロ雑巾みたくなったけど｣
温い手のひらが私の両頬を包む。
そっと視線を合わせるように促してくれて。
私の沈痛を一緒に担ってくれるみたいに、颯輔はそっと瞼を閉じた。こん、と額をくっつける。
｢君に逢えた。それだけで俺は幸せだよ｣
鼻声でそんなことを言う。
震える肩に天使の翼が触れたような感覚を味わった。空っぽだった心がこんなにも心地よく埋められていく。
｢俺は、君のおかげで感情を取り戻せた。君のお父さんのおかげで、俺は、君の弟のおかげで───｣
颯輔の声に一切の覇気がなくなった。
｢……神様に初めて感謝したんだ｣
周りの何もかもが私の耳から弾かれた。
雑音も爆発音も誰かの叫び声も泣き声も。
大好きな颯輔の声だけが耳を通る。
｢願ったんだ。最後にして下さいって。三度目に死ぬ直前、次でもう終わりにして下さいって…｣
｢……うん｣
｢だから、《四宮》じゃなくて《西宮》にして貰ったんだ。次の五がある四じゃなくて、死の意味を持つ西の字に｣
｢…っう、ん｣
ボロボロ、涙がとめどなく溢れる。
颯輔の本音を聞けている。
今包み隠さず。こんな、こんな。
｢神様も、案外いい人なのかもって、思えた｣
颯輔のはっきりとした輪郭が透明に近付いていく。
反射的に目を見開くも、彼は何ら変わらない様子で想いを吐き出し続ける。颯輔の背広を握る右手に力を込めた。
｢A嬢がいたから俺はここまで生きれた…37年も生きたの初めてだった｣
｢……私も、颯輔｣
｢警察官になれた。人を、沢山救えた｣
｢…っう、うん、うんっ｣
｢最後にこうして、君を守れる。今までとは違う。ちゃんと、生きていて貰える｣
颯輔の姿が白く霞んでいく。
｢大切な人をこんな暗闇に塗れたままにするのは嫌だから。せめて…俺のクソ個性に出来るたった一つを──｣
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みるくてぃ(プロフ) - 電車で完結まで見たのですが、涙が止まりませんでした。本当に大好きな作品です！また読み返そうと思います！ (2021年6月29日 12時) (
レス) id: 850a94406b (このIDを非表示/違反報告)
夏李 - とても面白かったです！でも爆豪のヒーロー名は爆心地かと、 (2019年5月10日 18時) (レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわわたあめ♪(プロフ) - 涙腺崩壊…ほんとにやばい、面白すぎ！完結おめでとうございます！ (2018年7月23日 17時) (レス) id: 770379ee24 (このIDを非表示/違反報告)
Sena - 完結おめでとうございます！感動しましたー！姉弟愛が凄くよかったです。 (2018年5月23日 15時) (レス) id: dfb791a807 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - ありがとうございました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (2018年5月20日 16時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よる。 | 作成日時：2017年10月20日 19時
