姉愛［262］｡完全敗北｡ ページ12
no-side
｢っあああぁぁぁ｣
悲劇の声を荒らげる出久。
消えてしまった幼馴染みを未だ求めていた。
痛々しいその姿に、合流したお茶子達も眉を落とした。皆が悔しさを露わにした。そんな中で一人は呆然と、まるで人形のように呼吸をしていた。拙く。
Aだった。生気を感じられない。
｢………Aさん、Aさん｣
剣楽梛が声をかけるも反応は無い。
｢っ。Aさん！｣
｢……！ な、ぎ？｣
｢はい。俺です。見えますか？｣
Aの目の前で掌を振り、視界を確認する。
のろりと動くAの眼球を見てから梛は手を下ろした。大剣を体内に仕舞う。
｢どうして…君がここに…｣
｢…すみません。心配が抜けきれず涼羽に黙ってついて来てしまいました｣
声を発さず顔を俯かせるA。
｢すみません。爆豪も救けねばと思ったのですが…｣
居心地悪そうに後味悪そうに唇を歪ます。
それから涙を流す出久を見やって、奥歯を強く噛み合わせた。
｢…………｣
Aは何も言わない。
何も、何もその瞳に表さない。
本当に人形のようだった。感情を持たない飾り物のように美しいだけの置物のように。胸がはち切れそうだと梛は心中で嘆く。
｢……Aさん｣
か細く主の名前を漏らした。
目尻を少し赤くしてAの手をとる。
｢今は、帰りましょう…｣
堪え混じりの声色だった。
皆悔しくてやり切れないのは同じだった。
震えるAの手を、梛は優しく握っていた。そこに責め立てるような感情はまるでなく唯々、彼女に対する愛だけがあった。
｢………っ｣
焦凍は目を逸らし続けた。
最愛の姉に寄り添えない。
こんな状況なんだから一番に駆け寄って一番に慰めたい。苦しみを分かち合いたいのに出来ない。
それは紛れも無く自分のあの発言のせいで。
あんな風に怒鳴らなければ、今頃。
A姉の手を握っているのは俺だったのに。
｢………クソっ｣
嬉々で終わる筈だった夏の思い出は、最悪の形で幕を閉じた。
十五分後、救急や消防が到着した。
意識不明の重体十五名。重軽傷者十一名。
無傷で済んだのはたった十三名だった。
……行方不明者は、一名。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1743人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みるくてぃ(プロフ) - 電車で完結まで見たのですが、涙が止まりませんでした。本当に大好きな作品です！また読み返そうと思います！ (2021年6月29日 12時) (
レス) id: 850a94406b (このIDを非表示/違反報告)
夏李 - とても面白かったです！でも爆豪のヒーロー名は爆心地かと、 (2019年5月10日 18時) (レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわわたあめ♪(プロフ) - 涙腺崩壊…ほんとにやばい、面白すぎ！完結おめでとうございます！ (2018年7月23日 17時) (レス) id: 770379ee24 (このIDを非表示/違反報告)
Sena - 完結おめでとうございます！感動しましたー！姉弟愛が凄くよかったです。 (2018年5月23日 15時) (レス) id: dfb791a807 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - ありがとうございました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (2018年5月20日 16時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よる。 | 作成日時：2017年10月20日 19時
